ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

大西科学「さよならペンギン」

さよならペンギン (ハヤカワ文庫 JA オ 9-1) (ハヤカワ文庫JA)

さよならペンギン (ハヤカワ文庫 JA オ 9-1) (ハヤカワ文庫JA)

物事の関連性を闘争の概念で語るならば WinWin の関係って世間で安易に言われるほどには実在していなくて、大抵の場合は単なる勘違いもしくは意図的な言いくるめによってどちらか一方が Looser である状態が観測されてないだけのことだ。

なんてことを常日頃考えていると他人に言動の端々を捕らえられ「荒んでいる」などと観測を受けるので、あんまりそんなことは考えない方がいいです。それが戦略的互恵関係ってもんです。大西科学は以前「ジョン平とぼくと」をひとから借りて読んだことがあって、動物と相棒するのが好きな人なのかな、と思う。

実を言うと読了後面白く感じる気持ちは在りながら、それでもどうにもモヤモヤするものがついて回って、大抵そんな時には感想を挙げない場合が多いんだけど、Webでいろいろひと様の感想を読んでみたらなんとなく落ち着いた気分になる。他者の観測に影響受けすぎだと思うが。まあともかく、


――ああなるほど、バトル展開しなけりゃ良かったんだ。


冒頭、学習塾講師であるところの南部観一郎と生徒達の会話場面はしみじみ良い。挿話として繰り返される南部と「先生」との対話もだ。ペンダンとの日常に至っては言わずもがなだ。

そういう空気で掘り進めて行ければもっとよかったのかも知れないな。世界の観測者がふたり出会って、どちらか一方が観測を続けるというお話しを、なにも闘争と対立で描かなくとも、もっとしみじみと良い形で、どちらか一方が Winner なら、もう片方は必ず Looser なんだと、そういうのって無いもんですかね。

さすればしじみのお味噌汁みたいな味わいがですね

ところでこの小説はタイトルに反してペンギンに別れを告げる話ではなかった。ペンギンにさよならを言う方法はいまだに発見されていない。

わけがない。