ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

テリー・ビッスン「平ら山を越えて」

平ら山を越えて (奇想コレクション)

平ら山を越えて (奇想コレクション)

奇想コレクションでは「ふたりジャネット」*1以来のビッスン。むかーし「世界の果てまで何マイル?」asin:4150110352を読んだ時にはスチーム・パンク的でオルタネイティブな文脈で受容したのを思い出した。表題作「平ら山を越えて」はやっぱりクルマが山を登っていく話で*2、こちらは未来SF調で、どこか終末論じみた雰囲気があるけれど、本質は少年小説で男子的な何か、ですね。本書の収録作ではピカイチの「ちょっとだけ違う故郷」もやっぱり男の子小説だけど、こっちはマジック・リアリズム風味…なのかなあ。呪術めいた飛行機で故郷の街を飛び出してみれば、周囲は全部砂漠でやがて辿りついた先はパラレル・ワールドならぬパラレル・ホームタウンで。ボーイロストガール、いい話です。

ネビュラ賞も受賞した「マックたち」はちょっとすごいよこれ?恩田陸の「Q&A」*3を思い起こしたインタビュー形式の作品で、ただ回答だけが羅列されていくなか最後の一行で質問者が現れ、実は…という。テーマはなんだろう、クローンを題に取った死刑制度や人々の持つ暴力性、都市伝説と家族、そんなところかな。これまで意識してこなかったんだけどビッスンってかなり左翼的(アメリカの左翼的)人物なのだそうで、その視点から描かれた社会や体制への批判的な、インウツとした作品が多い気がしました。高齢化社会となった未来のアメリカで老人の間引き政策が行われている「謹啓」の急展開と結末とかね、老人SFで希望を持たせるのも難しいとは思うけれども。

あとがきによると「スカウトの名誉」の語り手は女性だそうだけれど、自分は男性だとばかり思っていたので意外。「男の子小説作品集」だと思って読み進めてたからかな?オタクとリア充の対比だと思って読んでましたw 「ザ・ジョージ・ショー」の語り手はもちろん女性なのだけれど、これは間違いなく男の子向き小説です。マルチタスクって、素晴らしいですね!!

*1:http://d.hatena.ne.jp/abogard/20080408#1207664532

*2:「世界の果てまで――」がそんな展開だった気がするんだ

*3:http://d.hatena.ne.jp/abogard/20070421#1177147482