- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/06/26
- メディア: 単行本
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古典部シリーズ最新巻、とはいえ読むのは半年遅れか(笑)
前作「遠まわりする雛」のラストで罠ではないが似たようなもの、に落ちた名探偵折木奉太郎は恐るべき敵と対決するッ!死神よりも恐ろしいその敵の名は、
ごめんいまおれうそついた。いや似たようなものか。米澤作品のなかでは比較的「白米澤」な古典部シリーズだけれども、これもまでも要所要所でダークネスな「黒米澤」要素は顔を出してきていて今回はかなりきつ目です。誰が悪いって訳じゃなく、傷ついた人間は救えず、しかし折木奉太郎の最大の関心事である「千反田えるの悩み」を解決することには(ある程度)成功していて…悩みは解いても苦しみはままならない、且つ動機づけが傲慢といえば傲慢なところから発生しているので嫌う向きは嫌うかなーとも、思う。ミステリー小説としてはあまりに「行動から心理を演繹する」推理が多くて、それで謎が解かれるのは双方納得の上で会話が成り立っているからだというのが、そこがいちばん傲慢なのかもしれないな。そこを逆手に取ったのが「インシテミル」の面白さだったんだけれど、映画は相当ヒドかったらしひ。そりゃまあ、そうだろうけど。
青春小説としては非常に面白いものだと感じます。薄氷を踏んでいくような学生生活を、幸か不幸か僕は送ったことが無いけれど、石橋の端から淵を覗いていたような身としても、憧れることはあるものでね。みんなちょっとずつ成長していくなーと思ったのは福部里志がいつもの信条を最早唱えずに「ごめんなさいしか言えない生き物」に成り下がってたところだろうか。人間罠ではないが似たようなものにどんどんおちてしまへ(´・ω・`)
マラソン大会の間に推理をするって構成は恩田陸「夜のピクニック」みたいな何かか。もっとも一晩かけて歩き通したら省エネ主義が枯渇して主人公が死んでしまうwので精々20kmの間に謎は解かれます。大事なのは合間合間で挿入される回想シーンだって最初から判明しているので考えながら読んでいくのが楽しい…か?いや、楽しいな。新歓活動とか懐かしい風景です。いやワタクシそんな熱心に活動しませんでしたけどな、過去は美化されるものでな。タイトルは非常によくて最後まで読むとああ「概算」なんだよなーとしみじみ思わされます。たとえどれだけ論理的に振る舞ってみても、正確な計算が出来る数字ではないのだと…文庫化の際にはどんな英題が付けられるのか、いまから楽しみ。
スニーカー文庫時代を知らないんで千反田えるのイラストを見たのは初めてだけど、もうちょっと目が大きくてもいいかなー、とか。
で、そうだなぁ…フィクションの登場人物についてこんなことを考えるのはあまり意味のない行為なんだけれど、古典部のメンバーが現実的に自分の身の周りに居たらどうだろうなあとか、思いました。学生として、ですね。彼ら四人の中の良さを羨ましく思いこそすれ、新入部員としてその狭い輪の中に入って行く選択肢は無いなあ。や、自分も相当変な部活にいたことは確かですけど。
…多分、自分の身の周りに折木奉太郎のような人間が実際にいたら、それは明確に「敵」だったろうなと思うんですよ。リア充ばくはつしろとか、そういうことではなくてね(苦笑)
<追記>
若干ネタバレあり気味にて。
冒頭、スタート地点での「これは僕の仕業じゃない。僕にやれと言った人がいて、僕に役割が割り振られたからやるだけで、僕の意志じゃないし責任も無い」という台詞(いや、台詞ではないのだが)と総て問題が解決したときの「お前は傷ついたかも知れないが、それは俺たちのせいじゃない」が微妙に呼応しているように感じました。厳密には後者も台詞ではないのですけど。
その残酷さを自覚したエンドは次巻につながるのかな?それだとなんだか「小市民シリーズ」のようなノリのように思いますが。