ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

シャーリイ・ジャクスン「くじ」

くじ (異色作家短篇集)

くじ (異色作家短篇集)

異色作家短篇集6巻。表題作は別のアンソロジーで読んでる*1けれど、著者の他の作品は長編2冊だけでこれまで短編を読んだことは無かった。


いや、すごいなこれ。


どんな話か説明するのは難しい。なにしろなにも起こらないのだ。比較的短い、掌編と呼んで差し支えないようなボリュームのものまである中で、描かれているのは日常的なひとコマの風景が多い。ごく普通の人々の、ごく普通のなりわいに、しかし薄氷一枚踏み抜けばなにか暗闇のような「なにか」が在るのを暗示させるような…そんな話。冷たい緊張感と、常に敗北していく市井の人の様子のような。

強いてベストを挙げるなら「決闘裁判」かな。随分物騒なタイトルとは裏腹に、ここで語られるのは安アパートに一人住まいの主人公と別室にやはり孤独に暮らしている老女との、窃盗をめぐる小さな不和の物語なのだけれどもやっぱりこれは決闘で、主人公は敗北する。何に?

人の悪意か。

「ずっとお城で暮らしてる」もそんな話だったな…

「山荘綺談」読み返そうかな。


短篇集全体は四部+エピローグからなる五部構成で、それぞれの段をジョーゼフ・グランヴィル「勝ち誇るサドカイびと」なる書物からの引用文が結び付けている構造になってます(エピローグのみF・J・チャイルドのバラッド「魔性の恋人ジェームズ・ハリス」の引用)つまりその、「サドカイ教徒の勝利」ってあれ実在の書物だったのかー!!といやはやなんとも、素人まるだしで(苦笑)