ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

高野史緒(編)「時間は誰も待ってくれない」

時間はだれも待ってくれない

時間はだれも待ってくれない

「21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集」と副題にあるように、いわゆる東欧圏でここ10年に書かれた現代SF・ファンタスチカ作品を合計十カ国十二作品集めたアンソロジー。

ファンタスチカとはなんぞや。

編者の文章を読んで思うに、日本だと安部公房とか大江健三郎みたいな非現実的な題材・展開を扱う作品をSFとか幻想とか怪奇とか全部ひっくるめて扱う「大綱」のようなものかなー。そういう大分類があることが、果たして著者や読者にとって良いのか悪いのか、よくわからないんだが。

表題作はポーランドのミハウ・ストゥドニャレクによるものでハロウィンの日に喪われた過去のワルシャワの街並み、建築物が幻想のように現れて…というノスタルジックなものだけれど、収録作品全体ではビックリSFやポストホロコースト的作品、不条理物などいろいろです。スロヴァキアのシチェファン・フスリツァの二作品(この人だけ二本収録されている)「三つの色」と「カウントダウン」はどちらも破滅的タナトスに満ちていてステキ。

本書全体を通じて編者である高野史緒が前面に出過ぎな印象があって、ちょっとそこに引っ掛かるものを感じたのは確かだなあ。鼻につくところがあるとでも言えば良いか。文学的に大事なことをやってるのはなんとなくわかるんですけど、そこまで息巻いてやらんでも…と。特に旧東ドイツのアンゲラ&カールハインツ・シュタインミュラー夫妻「労働者階級の手にあるインターネット」、これは現在でも東独が存在し続けるパラレル世界の自分からメールが届いて…のような作品で、はっきり解明を見せないまま不安を残して終わるなかなか面白い一本でしたがその解説で

(翻訳にあたった)若林と西塔は二〇〇五年に私財を投じて本作の私家版を作っているが、こちらには本書に収録しきれなかった旧東独用語の訳注が大量に掲載されている。こちらも参照されたい。

どこで参照しろって言うんだ(#゚Д゚)


そんな感情を持ちもしましたけれど、興味深い内容でした。そして表紙のオブジェがいいよね、いかにも「東欧」って気がします。何か常に酷い目に遭ってるような、それは自分の偏見だって判るんだけどさ。