ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ラヴクラフトほか原作「悪魔のおとし子」

金の星社「世界こわい話ふしぎな話傑作集」第4巻アメリカ編。これぞまさしく今を去ることン十年前に初めて中学校の図書室で読んだ初のラヴクラフト作品にしてクトゥルフ神話への第一歩となった本でした。


ちなみに書影はこんなので、どう見ても「ダミアン」みたいなウイルバー・ホエートリーとアーミテイジ教授らしき人物そしてなぞの光るタマゴ。「おとし子」って別に卵で生まれた訳じゃないと思うんだが(w

内容としてはラヴクラフト作が4本「悪魔のおとし子」「戸口の怪物」「死者の復讐」「消えた街」*1に加えてエドワード・ルカス・ホワイトの「呪われた隊長」というアフリカ探検と部族魔術を主題にした作品*2の計5本からなる。ちなみに同シリーズ第16巻もにラヴクラフト作「血を呼ぶ絵」*3が収録されてるとのことで、児童書伝統の「翻案」による小学校中学年以上向きのラヴクラフトという存在も却って新鮮なおもむきが…ってアレ?おれこの本読んだの中学の時だぞ??これは図書委員会の陰謀であろうかはたまた司書教諭の罠か…

ストーリー展開についてはほぼ原作(原文)をなぞったものですが、なぜか「戸口の怪物」だけは最後の展開で順番が入れ替わってる箇所があります。面白いのは「ミスカトニック大学」や「アーミテイジ教授」といった人間世界に属する方の名前は普通に使われているのに「ヨグ=ソトース」などの神格や魔術書のタイトルは表記されていない所で、ウイルバー・ホエートリーがミスカトニック大学で閲覧する「ネクロノミコン」は

ふつうの人なら手にするのもいまわしく思う、死霊についてのべた魔術の本(一部ルビあり)

と、簡便に表記されています。固有名詞の扱いは難しいもので、特に何も知らないイタイケな小学生相手には得体の知れない神様や呪文書の名前がゴロゴロしても困るところかな?二次創作で対象となる読者を考慮する際にも、同様のことは言えるのですが。

旧支配者たちがすっかり影を潜めてしまった結果、この「悪魔のおとし子」単体で読むと単なる悪魔崇拝者ホラーに矮小化されてる感は否めません。むしろそれを狙ったセレクトなのかも知れないな…。それでもエーリッヒ・ツァンの窓から見える景色、扉の前に現れた歩く屍。恐怖の胆となるものはしっかり記述されています。

児童書なんで挿絵が多いのはよいところ、猫目小僧かはたまたドラえもん「人間製造機」に出てきたミュータント赤ちゃんかといった風情のウイルバー・ホエートリーが長じてやがてミスカトニック大学で死体となって正体を現す場面、そしてその見えない兄弟、

「納屋よりも、もっと大きい、全体は卵のような形だけど、とてつもなくでっかい怪物が、大だるのような太い足を一ダースもつけていて、くねくねして、大きくふくらんだ目がいくつもついていた。ぐにゃぐにゃゆれながら口をあけたり、しめたり、ああ、恐ろしい。気味わるい。」(一部ルビあり)

これこそ自分が初めて出会った神話生物なのです。正直本文についてはからきし覚えて無かったのですが、この場面の挿絵2枚はしっかり記憶の底で夢見るままに待ち至っていました。この本こそ過日自分が手に取ったものだと、確かに思いだしたのです。よくぞここまで来たな俺。


ウイルバーの すごい へそ毛。


こんにちは、通りすがりのガラモンです!


いや本当に、よくぞここまで来たな俺は…

*1:それぞれよく普及しているタイトルで言えば「ダンウイッチの怪」「戸口にあらわれたもの」「死体安置所にて」「エーリッヒ・ツァンの音楽」

*2:これに関しては作者も作品もまったく知らなかったが原題は「ルクンド」だそうだ

*3:「一枚の絵」ですね