ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ウィリアム・ナスダーフト&ジョシュ・スミス「失われた恐竜をもとめて」

失われた恐竜をもとめて―最大の肉食恐竜をめぐる100年の発掘プロジェクト

失われた恐竜をもとめて―最大の肉食恐竜をめぐる100年の発掘プロジェクト

スピノサウルス、いやスピノサウルスさんを巡る化石発掘の物語。1911年に初めてエジプトで発掘作業を行ったドイツ人古生物学者エルンスト・ローマーの道程と、2000年に同地を訪れ発掘現場の特定とあらたな化石の発見を企図したアメリカチームの記録のふたつが交互に描かれる内容はそれなりにドラマチックだ。

背にヨットのような帆を背負った巨大な肉食恐竜ということで、一度見たら誰でも強く印象に残るであろうスピノサウルスですが、ミュンヘン博物館に収蔵されていた化石は第二次世界大戦の空襲被害で消失しました。それを再度発掘しようというプロジェクトも面白いけれど、20世紀初頭のエジプトでのローマーの発掘作業の困難さに読み応えがあるような。いざ大発見となっても第一次世界大戦勃発の影響で母国に化石を運ぶことができす、ようやく手元に届いても世はワイマール・インフレ時代。さらにはヒトラーの台頭と第二次世界大戦と、この人の人生は苦労と犠牲ばっかりだ…

それに比べれば21世紀初頭のアメリカ人たちは苦労といってもそれほどではない。現地でラクダを集める必要もなく車にGPSで砂漠の中へ出かけて行ける。人夫たちが飲料水を盗む様なトラブルも起こるはずが無く、エジプトの治安は中東アフリカ諸国のなかでも随一で自由度も高い…なんてことが書かれている。

いまは、どうなんだろうね?

結局このプロジェクトではスピノサウルスそのものを再発見することはかなわず、しかしもっと大きな発見、白亜紀当時のバフレイヤ低地の様相を解明し巨大竜脚類「パラリィティタン・ストローメイ」の化石が発掘される。この貴重な標本を決してアメリカ考古学界の所有にすることなくカイロ地質学博物館に保管される結末はいささかの感動を誘うけれど、例のフェイスブック革命()とその後の混乱のなかで博物館や美術館も略奪されたりしたんだよな…と、いささか不安になったのも事実。

ところで、自分の中のスピノサウルス観(笑)が変化したのは2009年夏の幕張メッセ恐竜展でのことなんだけど*1、当時の図録を見直したらこの本の登場人物の一人マット・ラマンナ博士が寄稿されていた。このひと、もとは恐竜オタクの少年だったんだなww