ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

会津信吾・藤元直樹 編「怪樹の腕」

副題にも在るように「ウィアード・テールズ」誌に掲載され戦前に邦訳された作品を集めた短編集。パルプホラー雑誌の代名詞のように言われる事が多いWT誌から、既に昭和初期にこれほど多くの(本書には22本の作品が収録されている)翻訳が成されているとは知らず、書誌学的には非常に価値が高いものと思われる。翻訳とは言っても現在のように著作権代理業者が介在した上での正規版権取得などでは全然なくて、どうやら偶々日本国内で流通していたWT誌掲載作品アンソロジー“Not At Night”三冊からの訳出――翻訳者の好き勝手なセレクトで――されたものが「新青年」などの誌面を飾っていたと、そういうことだそうです。特徴としては単に翻訳のみならず登場人物や舞台を日本に移し替えた「翻案」作品が多く在ることで、現在では児童書の分野に若干見られる程度かな?当時の翻訳小説界の、ある種猥雑な感覚を味わえる。


一時期物議を醸したアカデミー出版の「超訳」なんてカワイイもんですはい。


でその、肝心の中身の方ですがその、かな〜り シ ョ ボ イ ですよ(´・ω・`) ラヴクラフトとかシーベリー・クインとかはしっかりやってたんだなあと改めて思わされる、なんて言うかなつまんない飲み会で瞬間芸を延々と見せられているようなションボリ感は確かにある。オーガスト・ダーレスの実質的デビュー作「蝙蝠鐘楼」はオカルト趣味(というより魔術所趣味か)やホームズへの言及、いわゆる手記体のデッドエンド形式など後世の片鱗を示す箇所がいくつもあり、その他にもフランク・ベルナップ・ロングの初期作品など掘り出し物はいくつかあります。しかし全体としてはチープな空気が色濃く感じられるものである。


だ が 、 そ れ が よ い 。


ようするに駄菓子屋である。高級なものなどひとつもないが、高級な店では到底出し得ないような独特の味わいが確かにある。表題作「怪樹の腕」なんかはとりわけしょーもない一品で、ワザとこれタイトルにしたんじゃないかと邪推するほどドイヒーだったりする(w 思うに、マッドサイエンティストの実子が常に美少女なのは当時の価値観がまだまだ未開の原始的な状態で、ショタ属性などは微塵もなかったことを今に伝えてくれますねい。

人種ネタとか現在では書けないような種類の作品もあり、色々な意味で興味深い内容であることは間違い在りません。また編者2名による巻末解説「パルプマガジンと日本人」「怪奇な話――ウィアードテールズ」が資料的価値が高く読み応えのあるものです。好事家向きとは思いますが、好事家なら是非目を通しておくべきでしょう。読者の科学知識が低い時代って作家にやさしいですねえ(問題発言)