ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

東雅夫 編「怪獣文藝」

怪獣文藝 (幽ブックス)

怪獣文藝 (幽ブックス)

うううううううむちょっと批判的な感想になります。面白くなかったことを記録しても益にはならんし、普段はあまりやらないようにしてる行為なのですけれども。

ですから、そういう文章お嫌いな方はこの先お読みにならない方が宜しいかと存じます。


往年の「ウルトラ怪獣入門」や「怪獣図解入門」みたいな児童書タッチの装丁に反して中身は随分と粘着質な、ダークでウェットな作品が続いたんでいささか面食らいました。編者は殿下だし「幽」が初出の作品もあるしで中身は自然、むしろ外側がヘンなのだろうなーと読み進んでいくと最後に掲載されてる対談(夢枕獏樋口真嗣による)の中で司会者東雅夫の発言として

この本は、当初「大怪獣怪談」というタイトルだったんです。怪獣で怪談・奇談をやろうとしていたんですが……。

たぶん、そうすべきだったろうと思います。もっと「幽ブックス」的な装丁だったら外観と中身が乖離するような印象は受けなかったかも知れません。もっともその場合、果たして手に取ったかどうか疑わしいものではありますが……

その辺の引っかかりを気にしなければ「怪談」的にユニークなものはいくつか見られます。江戸時代のゾンビ退治物のようで実はウルトラマンの第3話「科特隊出撃せよ」*1の前日譚になっている山田正紀「松井清衛門、推参つかまつる」やゾンビ的な怪物の群れに襲われた街で、ちょうど着ぐるみの怪獣とは逆にひとの皮を剥いで内側から怪物が現れ来る吉村萬壱「別の存在」の二作はよかった。どちらもゾンビ物の体裁を取っているのはやはり世界的にゾンビブームだからかな? 菊池秀行の「怪獣都市」は怪獣映画をテーマにしているし、佐野史郎の「ナミ」は現代に息づく日本神話の怪を扱っているけれど、どうも読んでいて全体にあまり日本の怪獣・特撮映画らしさを感じないのだよなー。

自分の考える「怪獣映画らしさ」と編著者たちのそれが相当隔たったものであると、たぶんそういうことでしょう。その違いは個々の小説作品よりむしろ対談から明らかで、例えば佐野史郎民俗学者赤坂憲雄の対談で

ゴジラ』は鎮魂と供養の民俗的な物語として捉えられるわけです

うーんまたそういう話になりますか。民俗学者を招いて活字媒体で対談すれば話がアカデミックな色合いを帯びるのは自然なことで、たしかに怪獣は民俗的な物語として「も」捉えられるかも知れません。でも、それだけではないよね。「仮面ライダーファンの人はインテリにならないで下さい」とかプロデューサーの誰かが言ってたけど、箔付けに学者呼んでくるより着ぐるみで学会に殴り込んだ方がずっとずっと良いぞ何しろ怪獣なんだから。あと太鼓は止めた方が良いぞ子供に売れないからな。

怪奇に象徴される閉塞感が怪獣にはない。怪獣は開放的なんです。おそらく見ている側が怪獣に望んでいることって、建物を破壊するような、見ていてスカッとさせてくれる事なんだと思う。

と言う割にはこの本妙に閉塞してんだよな。なにせ今の発言した当人(樋口真嗣)が同じ対談の中でアメリカのある世代は子供の頃に繰り返しTV放送で「ゴジラ対メガロ」を見ていたって話を挙げて

だから、「ゴジラ対メガロ」こそ最高の「ゴジラ」で。ほかの作品もあとで知っていいなとは思ったけど、彼らにとって初体験は「ゴジラ対メガロ」なんです。なんだか可哀想だなと思ってしまって(笑)

いや「可哀想」って何よ?そりゃメガロってチープな映画だし俺もつまらないと思うけど、それを楽しんでいた人を蔑むことはないよね。どうもその、かなり核心的なところで一部の(あくまで一部の、としておく)特撮ファン、マニアのイヤな視点が垣間見えてどうも落ち着かないのです。

巨神兵東京に現る」面白かったですよ?あれこそ開放的、わずか10分の短編作品で怪獣映画のスカッとする要素を十分盛り込んでいて大変良かったので…

文学の力で助けられた部分もあるんです。モノローグは舞城王太郎さんにお願いしました。嬉々として準備しているときに「このままじゃダメだ、ただ好きでやっているのがバレる」と思って(笑)。

バレていいんですよむしろバラせよ!だから日本の特撮ってダメなんだよ!!Sie sind Feiglinge !Verr〓ter ! Versager !

そんなことを思うのもパシフィック・リム見たあとだからか。なんだか樋口真嗣批判みたいになってしまったけど別に個人を攻撃したいわけではなくて、唯一怪獣映画を「作る」側から参加されたひとの発言なので打ち返しやすいコースに球を投げてくれているという、だいたいそんな理由です。

もっとね、快楽に自覚的でいいと思うんだよね。怪獣の魅力って要するにエロスやタナトスに劣情を催すことなんだから、もっとエロい怪獣映画撮ろうぜ!!*2ゾーラギゾーラギ。ってもうこれ本の感想文じゃないよな(笑)

*1:生まれて初めて見たウルトラシリーズってこのネロンガ回だわ、考えてみれば

*2:コスプレヒロインAVを撮れと言ってるわけではない