- 作者: ウラジーミル・ソローキン,松下隆志
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2013/09/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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皇帝制が復活した近未来のロシア社会というSF小説の体を成してはいるけれど、そこで描かれることは現代のロシア作家が現代ロシア社会に危惧する一種の戯画や風刺的な意味合いを持つ作品、ということになるのかな?もっと「純文」的なものを想像して手に取ってみたけれど、何かの比喩かと思った「親衛隊士」が本当に親衛隊の隊士だったんでちょっとびっくりしました(笑)
イワン雷帝の時代を思わせるような復古的な帝国制度が施行されているロシアの、親衛隊士コミャーガの朝起きてから夜床につくまでの生活を切り取った作品で未来SFというよりスチームパンクのようなオルタネイティブもの、として読んだ方がいろいろ面白いかと思われます。親衛隊(オプリーチニナ)というのは要するに皇帝直属の警察的組織なんだけど、まあ失脚した貴族の邸宅を徴収するかたわら皆で夫人をアレしちゃったり、麻薬売買を取締りながら自分たちは市中に出回らないようなハイなブツをキメまくったりとイイ感じに強圧的で適度に腐敗してます。おそロシアって感じです(笑)
「誰それの日」と題されればそれはやっぱりロシア文学的ではある。本文あらゆるところに現実のロシア文学・文学者を示唆するパロディやオマージュがちりばめられ、訳注がそれを丁寧に解説してくれているのは正直有り難いです。これがなければ何も気付かず読み飛ばしていたでしょう・・・とはいえロシア文学も文学者もサパーリ知らないので訳注見ても(゚Д゚)ハァ? って感じなのは読んでるこっちの問題だけど、終盤で御用詩人が読み上げる「皇帝を讃える詩」が実際にスターリン時代に詠まれていたほぼそのまま引用されていると解説されて、なるほどロシアの人が権力の濫用や政治制度の腐敗を恐れるのは故あることなんだなと改めて。
いちおう未来のハイテク・ロシア社会なんだけど、強大な政治制度を維持しつつそこで使用されている親衛隊の公用車輌が「中国製のメルセデス」だったりと、いちいち色んなところがヘンで面白かったなあ。*1
*1:「偽物」ではなくて中華資本が西側のブランドをあらかた買収した世界観らしい