- 作者: アルジャーノンブラックウッド,Algernon Henry Blackwood,南條竹則
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2013/05/14
- メディア: 文庫
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怪奇小説、というわけではまあないんでしょうけれどこっちの分類にしといたほうが何かと落ち着きます。森羅万象に対して「真の名」で呼び掛ける行為が対象物に影響を与えるというのは「ゲド戦記」シリーズなどがすぐさま思い浮かぶけれど、この作品は「発音」を重視していて普段からやれクトゥルーだのいやさクトゥルフだろうとまてまてク・リトル・リトルが正しい!などと言ってる向きには親和性が高いと思われます。
ひとりの人間では発声出来ない音を四人組みのいわばコーラスでやればそれが可能で、人ならざる上位存在つまり神の名を正しく呼べば、その力を自らの中に呼び入れ自在に操れるという「“マッドサイエンティスト”ならぬ“マッドオカルティスト”小説(訳者解説より)」。奇妙な求人広告に興味を抱いてそこから事件に巻き込まれ…という構図は同じブラックウッドの「秘書綺譚」*1やシャーロック・ホームズものなど19世紀末から20世紀初頭に掛けて良くあるものかと思われます。流石に現代ではあまりみられないのは、「求人広告」自体がそもそも信頼の置けないものだからかどうかは知らないが。
ネタバレするとフィリップ・スケールの計画は失敗してしまう訳なのだけれど、造物主の力を我がものとする意欲は大それてはいるものの別段悪人ということもなく、世界征服や社会転覆など企まずにただただ宗教的愉悦に満ちて人を集め人を育てて、その夢がようやく現実のものとなろうとする、理想が叶わんとしたまさにそのときに
ぼくたちかけおちしますからサヨナラ! (*´∀`*)( ゚Д゚)ノシ Σ(゚д゚|||)エエッ
で潰えてしまうのは、理想に共鳴してともに計画を進めてきた主人公のスピンロビン君もとんだリア充である。ばくはつしやがれ。
別に誰かに悪さをするわけでもない計画を「大それてるから」ってな理由で降りちゃう主人公をどう捉えるかは、カバラをテーマにしたストーリーと著者や読者での宗教的なバックグラウンドにもよるかなあとは思いますけれど。
いまもむかしもバンドが分裂するのはオンナがらみだと、そーゆーはなしでもある。
巻末の解説にはブラックウッドの長編諸作品についてだいたいの概容が記されているのだけれど、どうも長編はイマイチな人だったようで。