ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

マイクル・コーニイ「パラークシの記憶」

パラークシの記憶 (河出文庫)

パラークシの記憶 (河出文庫)

「ハローサマー、グッドバイ*1の続編。作品成立までの紆余曲折は前巻のあとがきにあったはずなのだけれどすっかり忘れてしまったなあ。直接の続きものとはいえ時代は相当隔たっていて、前作で人類(惑星スティルクのヒューマノイド)を救ったドロ−ヴとブラウンアイズのふたりはすっかり伝説的な存在となり、前作では地球の19世紀ヨーロッパ程度に設定されていた文明はロストテクノロジーを満足に活用しきれない狩猟・農耕文明のレベルにまで退化している。また遙かに進歩したテクノロジーを持つ(恒星間航行など)地球人類が鉱石採掘のために植民をしているのも前作とは異なる点で、そして前作と最も異なる点は、スティルクの人々が個人の記憶を遺伝的に共有できる特殊能力を持っていること。

この能力があるために犯罪が起きない社会となっているスティルクの文明世界というのが今回の話のキモか。それだけでは犯罪を抑止できないんじゃあるまいかと考えるのは人間の業で(笑)、スティルクの人々は古来からの記憶の共有による伝承文化に基づいた生活を維持しています。男女に分かれた村の社会、内陸のヤムと沿岸のノス、独特の規範や宗教思想まやた(前作に引き続いて)奇妙な生物と自然環境の様相はエキゾチックで読み応えのあるもの、こういうタイプSFは昔の方が多かったように思います。

教条的で頑迷な社会集団と若者(たち)の対立という基本構造は前作と変わらず、今回はハーディとチャームのふたりが生き抜いていかねばならない文明が一種迷信的でもあるムラ社会なので明らかに前より読んでて辛い(w ハーディの叔父にしてヤムの村長スタンスのキャラクターにはフィクション作品には珍しくも心の底からイラつかされた。珍しい読書体験ではあった。

犯罪が起きないはずの社会で村長スタンスを補佐していた父ブルーノ(スタンスの実兄)が殺害されたことからハーディは斜陽の世界で権力闘争に巻き込まれるわけなのですが、前作の驚くべきラストと今回の途中までの展開を読んでいると、どうもこの惑星スティルクを支配しているのは(スティルクの)人類ではなく別の生き物ではないか・・・との疑いが起こる。実際それはその通りで、クライマックスで明かされるスティルクの世界の驚くべき秘密はいささか苦いものになるんだけれど、それでも人は生きていくというのが受動的なラストだった前作とは大幅に異なる、能動的で前向きなラストを描き出します。ハーディの最後の台詞はいささか芝居がかったものだけれど、これはこれでいいよな。狂信的な独裁者となっていくスタンス、進んだ科学技術を持ちつつ偽善的に振る舞う地球人とそこから外れて一人苦悩するミスター・マクニール。スティルクの文明も地球人の文明もなにか隠喩的で、「社会SF」としての側面はあるのでしょうね。

ネタバレしないように具体的なことはぼかして書いてますけど、こりゃ面白かった。「ハローサマ、グッバイ」から先に読まないと意味が解らないことが多いので、2冊セットでお薦め。2冊ともね、ヒロインが可愛いのよ。

「愛の営みをしましょ」チャームがささやいた。
「え、ここで?」
「つべこべいわないの」
というわけでぼくたちは、疲れていたにもかかわらず、時間をかけてゆっくりと(以下略)

しかも今回はお盛んである(*´д`*)