ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

フィリップ・K・ディック「死の迷路」

おおまかなあらすじは知っていたけれど「宇宙一イヤな『嵐の山荘』もの」みたいなポップを見て珍しく(?)書店で購入。「そして誰もいなくなった」をSFでやるような話なんだけど、登場人物がみなロクデナシ揃いでそーゆー連中が謎の植民惑星デルマク・Oでバタバタ死んでく。だいたいそんな話。意表をつかれたのは第一章から描写される登場人物が、まあ普通はそういう人が主人公なんですがそいつが真っ先に死ぬ。そしていかにもヒロインみたいなポジションの女性が次に死んじゃって残るはおっさんおばさん老人とガキでこの先どうなるんだと思ったらどうにもならないとゆーそのなんだ、ある種突き放したような展開が続くことですか。

いかにも人為的な宗教や中身をバラすと急に安っぽくなる謎の生物や、唐突に現れる謎の組織等々、いかにもデイック的に安っぽい(ほめてますよ)小道具・設定がどんどん投げ込まれ、投げ捨てられ、辿り着いた先にあったものが「それらが安っぽく見えるのは、それらが安っぽいからだ」とでも言うような冷たいラストに辿り着く。

いやあ、いいじゃないですかこれ。

本物と偽物、真と偽、そういうものをずっと扱ってきたデイックの作風は、ヴァーチャル・リアリティとは相性がいい。かの名作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」にも家庭の端末を利用した擬似世界没入ネットワークみたいな小道具が出てきたけれど、映画の「ブレードランナー」はばっさりカットしちゃったんだよなその部分。

まあともあれ「死の迷路」をひとことで表すなら

「とんでもねえ、あたしゃ神様だよ」

ということになろうか。いやマジでホントに。