ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

藤田昌雄「日本本土決戦」

日本本土決戦―知られざる国民義勇戦闘隊の全貌

日本本土決戦―知られざる国民義勇戦闘隊の全貌

「激戦場 皇軍うらばなし」*1などの藤田昌雄によるノンフィクションというより資料なのだけれど、まあこのブログのカテゴリーについてはあまり気にしない方向で。刊行前に概要を知ってこれは読まねば!と思いつつ気が付いたら2年経ってたのはその、 

 忘 れ て い た 

からですいません、自決します*2。内容については他に類書がない、と思われる太平洋戦争最末期の本土防衛体制の実態をまとめたもの。よく資料が残っていたなあとまず驚くとともに、一般にはなかなか読めないであろうものを、こうして一冊にまとめて出版されたことの意義を称えたいものです。このあたりの話は「はだしのゲン」やNHKの朝ドラなど一般層にも向けた作品でもしばしば取り上げられる半面、「竹槍でB-29を落とす」のような観念的なイメージによる批判が浸透していて、現実の、史実の恐ろしさを却ってスポイルしているのではないか…などと思っていたりもするもので。

現実に竹槍で立ち向かう相手は遥かな高空のB-29などではなく、目視距離に捉えた連合軍の正規歩兵部隊であって、一般国民によって編成された「国民義勇戦闘隊」がアメリカ・ソ連軍と現実に交戦した戦例も記録されています。これまでの著者の本には旧日本軍のシビアな(そしてこれまであまり注目されてこなかった)実態が赤裸々に描かれながら、ページのところどころには思わず笑ってしまうような箇所も散見されたのだけれど、今回は流石に重い内容で、読んでいて気が滅入ってくるのも確かだ。特に国民義勇隊の編成に関する法令の章ではどこをめくっても「義勇」「義勇」だらけで、体制が volunteer を強制することの恐怖を感じ取れる。やはりいま読んだのは良かったな。「この世界の片隅で」に接した後でよかった。この本に記載されていることもまた、昭和20年の日本の片隅で確かに起きていたことなのですから……

自分は極めて個人的に原爆投下と本土決戦をトレードオフな関係としてとらえている。原爆に(原爆被害に)言及することが被害原理主義になっている今の世ではあまり大きな声では言わないほうがよいことではあるけれど、原爆投下がもし起こらなかったらどうなったのか、それを考えるきっかけにはなるかも知れません。そのうえでたぶん、いま考えるべきは「絶対国防圏」であったサイパン島が失陥したときに、なぜ日本は戦争を止めることが出来なかったのか?それは政治や軍部の問題なのか、それとも「社会」全体の問題なのか…

そんなところかな。

だって次の戦争でも負けますよきっと、我々は。

*1:http://abogard.hatenadiary.jp/entry/20060325/1143297054

*2:「自己解決しました」の意