ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

吉田裕「日本軍兵士」

 

日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)
 

 「アジア・太平洋戦争の現実」と副題にある。現実とはなにか?本書で記されている事柄はこの戦争の期間に日本軍兵士に起きていたことの現実、取りも直さず「死に様」についての現実的な解説だ。正直機が滅入る内容ではある。驚きは、実はそれほどでもなかった。日本軍の(あるいは日本国民の)戦争死者の総数は記録されていても「年次別死者数の推移」は岩手県を除いてどこも記録がないというのは非常に驚かされたのだけれど、それが果たして終戦直後の混乱で失われたのか、最初からそんな統計は取っていなかったのか、それすらわからないというのも、昨今の本邦の情勢を見るにつけ、驚くことではないのかも知れない。

既に対米開戦前にシステムとしては破綻に瀕していた国家が、そこから崩壊へと辿る過程に於いて、個々の兵士にどのような死が訪れたのか、餓死、病死、神経症、海没…。無残で悲惨で物語性も何もない死の溢れるところ、そういう現実。

そこで見えてくるのは、やはり当時の日本の国力の貧弱さや旧弊な国家制度が如何に個人に負担を強いたかという現実なのだけれども、昨今の情勢を見るにつけ、これもまた驚くようなことではないのかも知れない。

なお本書には巻末に参考文献リストが明示されている、まことに結構なことであります。