ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

アガサ・クリスティー「五匹の子豚」

 

 クリスティーもまだまだ未読の名作がいくつもありそうで、ちょっと前にツイッターで好評が流れてくるまでタイトルすら認識していなかった1冊。16年前に起きた殺人事件の謎を、当時の関係者の証言と各人の綴った手記を頼りにポアロが真相を解明する。過去の事件を回想するタイプの作品というのはこれまでに「象は忘れない」*1を読んでいて、実は本作への言及もあったそうです。気づかなかったけど(笑)「無実はさいなむ」というのもあったけれど、これは「ドーヴァー海峡殺人事件」という映画でしか知らない。

ことばの節々や綾をほどいて人間心理の観点から事実を導き出すというのは、探偵というのはそこまで全能な存在なのか、提示された証言や文書はどこまで信頼がおけるものなのか。というような疑問が、実は読書中には生じていました。なるほど「後期クイーン的問題」みたいなことが取り沙汰されるわけだなぁとか思ったりしてね。それでも、読者の前に真犯人が提示されるその瞬間とラストの余韻を感じるに、その味わいと揺さぶられる感情こそがクリスティーを「ミステリーの女王」として多くの人々に愛されている所以なんだろうなあと思います。米澤穂信のミステリーが真実とか謎解きよりももっと別のものを重視している(ように感じる)ことと、少し似ている。真犯人も被害者も、どちらもその生き方、人物の在り様が胸を打つのです。

例によってタイトルはマザーグースなんだけれど、別に見立て殺人ではないし正直そこはあんまり機能していないように感じけれど、三部構成の第二部がすべて関係者の手記で構成されているというのはユニークでした。ドラマの「名探偵ポワロ」ではどう処理したんだろうか?