ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

フィリップ・カー「静かなる炎」

 

新グンターシリーズ2冊目。決して「新ベルリン三部作」とは呼ばれないのだろうなあ。三部作ではないし今回の舞台は主にアルゼンチンなので。

前作ラストでアドルフ・アイヒマンらと共にドイツを脱出する羽目に陥ったグンターが、渡航先の1950年アルゼンチンでファン・ペロンに会ってうっかり「医者と名乗っているけどホントは元刑事の私立探偵でして」などとバラしてしまって、当地で起きた少女惨殺事件を解明することになる成り行き。それが実は戦前にベルリンで起きた連続惨殺事件と同じ犯人なのではないか…という流れで半分ぐらいは1932年のベルリンが舞台ではある。例によって反骨精神ムキ出しで女にはコロリと弱く、軽口叩きすぎてしょっちゅう死にそうな目に遭うのは。舞台がドイツだろうとアルゼンチンだろうと大差ないのだなw そして例によって気が付けば他人の掌の上で踊らされてるだけでした!残念!!で今作ラストもアルゼンチンから尻尾撒いて逃げ出すことになる。それでいいのかフリップ・カー。まあ、それだけサム・スペードやフィリップ・マーロウよりもヤバい相手を敵に回してるということなんだろうけれど、ヒロイズムとしてどうなんだろうという気はしなくもない。今回グンターは実に若く美しいヒロイン、アンナ・ヤグブスキーと目出度く結ばれるのだけれど、最後のこの決断に同意させることは出来ず、独りウルグアイに落ち延びるのであった…。

 

本作は20世紀のアルゼンチンとユダヤ人迫害がメインテーマで、「政令十一号」というものが大きなカギを握っているのだけれど、実際のアルゼンチンでは公式に存在が認められたものでは無いそうで、どこまでが史実でどこからがフィクションであるかについては注意を払う必要があるでしょう。

 

ところで今回、登場人物一覧にオットー・スコルツェニーが並んでいて、そういうのは隠してほしいもんだなと幻滅したのだけれど、真のスペシャル・ゲスト・ナチは別に隠し玉で出てきましたよかったよかった。ほんでスコルツェニーが何をするかというと「酔っぱらって凄む」ただそれだけである。なんで出てきたスコルツェニー。まあ出さずにはいられなかったのだろうなあ…