あらかじめお断りするとこれは別にファンタジー小説ではない。「小説」ですらない。体裁を見ると絵本のようだけれど「絵本」でもない。では一体何なのかといったら、「架空の聖所で崇められている架空の聖女が起こした架空の奇蹟を伝える、想像上の奉納画集」です。ほーら何を言ってるんだかわからない。OKじゃあもう一回だけ言うね、「架空の聖所で崇められている架空の聖女が起こした架空の奇蹟を伝える、想像上の奉納画集」です。いちおう前書きには著者ブッツァーティがイタリア某所で出会った謎の老人に連れられて「カーシャの聖女リータ」が祀られた聖所に案内され、そこで素朴ながら多数の奉納画を見た体験、第二次大戦後に再訪しても影も形も見つけられなかったこと、当時のメモと記憶を頼りに自らの手で奉納画を再現したこと…などが書かれているけれど、そんなのぶっちゃけ作りごとです。でっち上げです。
そういうわけで「完全な真空」として、聖女リータの起こした数々の奇蹟をイラストとキャプションで描き連ねていく不思議な本です。化け猫と戦ったり異星人の宇宙船を撃墜したりとおよそ「聖女」らしからぬシュールな奇蹟もあったりだけれど、そこは作者の作風に従うところで。長文の解説とあとがきも読みごたえがあります。