ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ヘンリー・カットナー「ロボットには尻尾がない」

完全にタイトルと装丁だけに惹かれて読み始めて、そもそも何時だれか書いたものなんだ…というのは後から確認したらヘンリー・カットナーが1943年ごろに書いたものでした。先日読んだC.L.ムーアの「大宇宙の魔女」*1より10年ぐらいは新しめにせよ、古典と言ってはばかりないSFでしょう。ヘンリー・カットナーってラヴクラフトサークルの一員だという先入観もあって、恥ずかしながらこんな楽しいコメディ書いてたとは知らなかったなーと思ったら、実は「グラックの卵」*2に一本掲載されていて恥の塗り重ねである(何)

お話のパターンは基本どれもいっしょで、天才だけど重度のアルコール中毒でもある主人公ギャロウェイ・ギャラガーが記憶を無くして朝目覚めると、目の前には見覚えのない謎のマシーンが作動していて、なにか妙な事態が進行している。大抵の場合は警官が訪れたり債務不履行で訴えられたりで危機に陥るけれど、そもそも自分は酔った頭でナニを発明したのか…という謎解きを毎回やって、一件落着するパターン。第1作である「タイム・ロッカー」だけはこの流れじゃないけれど、いわゆるマッドサイエンティストものです。

おもしろいのよ、これ。シリアスな古典SFに比べてギャグやユーモア、あるいは「バカSF」的な作品はなかなか古びないのだろうなあ。もともとがギャグだから科学的な要素もトンデモ感炸裂でツッコミ入れたほうが負けなんだろうなあと思わせる。ブラックユーモアの気配も濃厚なので、特に教訓も道徳もなくケラケラ笑って読めます。全編に登場する訳じゃないけどグランパとロボットのジョー、わき役二人との掛け合いも楽しい。そしてたぶんトンデモ科学のトンデモ理論を大風呂敷広げて語れる筆致の確かさが、この作品の強度を支えているんでしょうね。

考えてみるとDr.スランプとかドラえもんとか、ああいう毛色の作品の源流のひとつ…なのかも知れません。どれも楽しいけどベストを上げるなら未来の火星から人類を征服しにやってくるかわいい生命体リブラと、毎朝庭に転がってる自分の死体の謎を解く「世界はわれらのもの」かしら。リブラかわいいよリブラ。