神保町ブックフェスティバルで購入のサイン本。6本中2本は既読で、表題作は読む前に「世にも奇妙な物語」でドラマ化したのを見ている。柴田勝家という作家はアイマスのVRでヴォイヴォイ言ってる人、という第一印象があるのだけれど、VRやARを題材にした作品は確かに多いような気がするなあ。以下収録順に。
「オンライン福男」
これは「ポストコロナのSF」で読んでました。コロナ禍の中始まったVR空間での福男神事が、病禍の過ぎ去った後でもひとつの競技として広がっていく様が読んでて気持ちいい。架空のeスポーツの、架空の発展史のようなものでもあり。
「クランツマンの秘仏」
SFマガジンの特集あるいはアンソロジー「異常論文」のきっかけともなった1本。論文というよりは架空の人物の架空の評伝のような形式、モキュメンタリーというのだろうか。抑えた筆致の中でちょっと異様な、鬼気を感じるようなところがあって良い。結末はシュレディンガーの猫のようでもある。竹書房の「ベストSF2021」でも読んでたな。
「絶滅の作法」
ここからは初読。人類が滅亡した後の地球に意識だけを飛ばしている異星の生命……いや、知性体か。そういう存在が人類の肉体と社会・文化を再構成して生活している地球を舞台に「本物の寿司」を食べようと稲作やったり魚を釣ったりする。種もみから収穫した稲を朱鷺(本物の朱鷺)に掻っ攫われるシーンが圧巻。
「火星環境下における宗教性原虫の適応と分布」
タイトルに見覚えは有るのでもしかしたらSFマガジンで読んでたかもです。ひとの宗教性は一種の寄生虫によって生じるというなかなかショッキングなテーマなんだけれど、これもまた異常論文風の、微妙につかみどころのない流れで進められる。オチはともかくとして、こういう話をやるときにキリスト教はいじれてもイスラム教は使えないのだろうなあとは思う。
「姫日記」
戦国大名美少女化シミュレーションゲーム?みたいなものをプレイしていくうちに、突然「実は自伝でした」みたいなところに落とし込む。これもまた架空の自伝、なんだろうなあとは思う。
「走馬灯のセトリは考えておいて」
以前「世にも奇妙な物語」でドラマ化された際には、同時放映された宮内悠介の「トランジスタ技術の圧縮」がだいぶアレンジされてたのでこっちはどうなんだろうと思ったら、かなり原作準拠だったもよう。おかげで初読なのにストーリーは全部知ってるという微妙な(笑)でも、これがいちばん面白いなあやっぱり。VR、AR、そういうもので現実の境界線は書き換えられ、生者と死者とバーチャル・アイドルが混在する世界の在り様。架空の未来。そういうところ。