2008年の著者没後も時折訳出が続くウェストレイク、ついにドートマンダー・シリーズ未訳長編が読めました。このシリーズ面白くてねえ、「ルパン三世」の特にPART2のコミカルさが好きな人にはきっと刺さると思うのだけれど、複数の版元・レーベルで細切りに出続けたから、いまゼロからスタートして全貌を見るのは難しいんでしょうね。あー角川からハヤカワに移った時に木村仁良(二郎)が翻訳はじめて、そして今回新潮からに変わっても、そのまま続けて担当しているのね。なるほどなるほど。
軽妙洒脱な会話でテンポよく話を転がしていくタイプのミステリーなので、翻訳者が変わらずに以前のまんまのノリでおなじみのキャラクターズと再会できるのはまことに嬉しい。みんな元気だ。そして1970年代に始まったシリーズでキャラクターたちは歳も取らずに全然変わらないのに、世の中の在り様はシビアに変わっていくのは、なかなか厳しいものがある。スタン・マーチが例のようにカジュアルに盗んだ車にはGPS発信機がついてて慌てて乗り捨てる羽目になるし、J・C・テイラーは郵便詐欺の事業を段階的に縮小しているし、コンピュータの達人であるところのアンディ・ケルプは目的地までの地図を紙に印刷してくれる。昔ながらの泥棒稼業を現代に行うのは大変で、アメリカにはもう大量の現金がため込まれている場所が全然無い、みたいなことを著者が言ってたのをずいぶん前に読んだ気がする。
今回のお話のメインは長期間自宅を留守にしている(元妻たちからの裁判召喚状の受け取りを拒否してカリブ海の島に引きこもっている)大富豪フェアウェザーの私有財産を空き巣でかすめ取ってしまおうという、由緒正しい泥棒稼業のお話で、そこに長年ドートマンダーたちが根城にしていた<OJバー&グリル>を、組織による乗っ取りから守るというサブプロット、さらにはフェアウェザー自身にも謎の美女の手びきによって身柄を拘束され、島から誘拐されるという動きが生じて……。並走する複数のプロットがクライマックスでひとつに結び付く気持ちよさは流石ベテランの技で、感心します。犯罪者一味がストレートに大成功は「しない」ところが、クライム・コメディのモラルでもあるんでしょうね。未訳作品も残りわずか、是非とも完走してほしいものです。
