星新一賞にはちょっと興味があって読んでみました。しかし理系SFって書いたことないよなあ。
じゃあなんで興味があるのかと言えば
……賞金(ヒドイ
以下収録作短観。
藤崎慎吾「「恐怖の谷」から「恍惚の峰」へ~その政策的応用」
いきなり横書き左綴じで驚いたけれど、英文も多用された架空の論文形式での記述にそれも納得。内容はヒューマノイドの外観に対する「不気味の谷」のような感覚を、人はAIに対して抱くのか?という論考なんだけれど、ここでいう人とは次世代天然知能(NNI)と呼ばれる「矯正人類」で、AIのほうは先進人工知能(AAI)と呼ばれる存在であり、論文を読んでいくとこの世界この時代は要するにAIが人類を支配している社会なんだなーという構図が浮かぶもの。そして「原型人類」が知性を持つに至った理由を示唆する。ハヤカワの「異常論文」とどっちが先かな?
相川啓太「次の満月の夜には」
二酸化炭素の吸収技術として人工的に進化させたサンゴに吸着させて環境問題の解決を図ろうとした計画が失敗し、人類は滅亡の縁に陥る。危うく難は逃れるけれどまたしても次の危機が……
1人称の語りを通じたシミュレーションのような小説。
佐藤実「ローンチ・フリー」
軌道エレベーターのケーブルを自転車的な乗り物で駆け上って宇宙を目指す話、人力で行くために食料や水、酸素などを厳密に計算し、しかし最後の最期でトラブルは起き、そして……
シンプルながら読みやすいように思う。
之人冗悟「OV元年」
オムニバイザーなる感覚拡張機器を装着した被験者によるレポート。当初は障碍者向け医療機器として用いられ、だんだんと普及していく。VRマシンとしての完成度が高まるにつれて人々はそれに依存を始め、経済が、社会が、文明が退行して行きそして……
全体を通じて描かれる知能の拡大と退潮による文章の変貌は、「アルジャーノンに花束を」のパロディのようではある。
八島游舷「Final Anchors」
これ、前にどこかで読んでるな。衝突寸前の二台の自動運転車で、車載AI同士が超高速で交通事故調停を行う話。どちらも秘密や嘘を持っていて、相手を打ち負かそうとする。
梅津高重「SINGxレインボー」
文明崩壊した世界でかろうじてネットワークに接続が残った「音ゲー」を使って社会基盤を成り立たせていく世界の話。ちょっと設定を咀嚼するに至らなかった。
白川小六「森で」
旧ベルギー領コンゴをスタート地点に、人体と葉緑素を結合する処置を施された人々の物語。人間で光合成というとドミニオンだけれど、こちらは「飢餓の克服」が目的だ。福音となるべく生まれた技術はやがて「食料のいらない奴隷労働」を生み出し、同時並行していた「人体を樹木化する終末医療」技術と結合して人類すべてを緑化する。独り森に残された主人公の最後の行動は……。
これは良かった。人体に葉緑素を定着する技術も、人を樹木化する医療も「ある」と言って話を進めるのが短編小説に要求される筆力だろう。
村上岳「繭子」
とても美しい物語です、物理で人を読み解こうとする試みと、それが叶わぬ絶望と、反転して自分自身に向けられる疑義と、そこから一歩高まる見解。すべてはきっと恋なのでしょう。やっていることはほぼほぼストーカーなのですが。
関元聡「リンネウス」
リンネであるが、輪廻である。輪廻であるが、転生ではない。様々ないきものの生と死を転々としながら、どこかへと向かって行く意識。父と子。仮想の父と仮想の子。それぞれの意識。最後に描かれるビジョンは稀有壮大で、フレドリック・ブラウンに「不死鳥への手紙」ってあったよなあと、ブラウンの方は別に鳥が出てきたりはしないのだが
あっ「見よ、かの巨鳥を」ってあったなあ。
関元聡「楕円軌道の精霊たち」
そもそもこちらの作品をサイトで読んだのが、星賞に興味を持ったきっかけでした。温暖化と海面上昇で失われた島を、軌道エレベーターの先に再建する試み。初読時はやはりビジョン、ビジュアル面に惹かれたのですが、読み直してみると補陀落渡海の思想であるとか、軌道エレベーターを破壊して文明世界に一矢報いるとか、なんかそういうところが刺さる。そしてVRとして再建された文化の儚い美しさが響く。
柚木理佐「冬の果実」
難病を抱えた主人公が特効薬の治験に結果を得られない、シンと冷え込んだ文章を読み進めていくと、実は地球と人類文明が不治の病に罹っていることに気づかされる。その世界で病が寛解しないことは、果たして救いなのか?という医療と哲学、かな?そういう思弁小説…ですかね……
読む分には面白い。しかし自分に書けるだろうか理系SF。巻末解説には
いずれも、科学的な知識を元に、科学技術と社会の関係の本質を切り取った作品だと言える。
などとあってうううううむ。
