日本SF作家クラブのアンソロジー、順番としては4冊目。既読はこちらから
今回は1本ずつ感想を起こしていくのではなく全体的な印象と、よいなあと思ったものを。
「悠久と日常」「温暖化」「AIと」「ヒトと」「生態系」「経済」「内と外」「視点」それぞれの部に別れているけれど、これは原稿提出後に編集側で割り振ったものだろうと考えます。広く「地球へのSF」というものを考えたときに(地球「と」SFではないんですね)、やっぱり多少なりとも環境問題が立ち上がってくるんではないでしょうか。距離感や価値観は様々ですが、「地球とは何ぞや」を考えることは「環境」を考えることに近しい行為でありましょうし。
・関元聡「ワタリガラスの墓標」
今回はこちらの作品が抜群に良かった。近年様々なアワードを受賞しているのも納得です。温暖化で変異する環境に人間は敗れていくけれど、その環境に適応する生き物も現れる。環境問題というのは人間環境の問題であって(いや人間じゃなくとも環境負荷に耐えられない生物は多くありますが)、地球そのものの問題ではないかもしれない。そういう怜悧さ、冷たさが南極で突然熊に襲われるというこう、ダイナミズム?に結実しているように読めました。熊強い。
・林譲治「我が谷は紅なりき」
火星に移住し変貌した人類が、荒廃した地球への帰還を果たす作品。火星環境に順応した種族にとって酸素は猛毒で、帰還した地球(彼らの文化では「禁星」と呼ばれる)にわずかに見られた生態系の回復はむしろ駆除すべき害毒である。ところが、地球の地底には密かに生きながらえていた酸素呼吸生物が存在し、闘争が始まる。火星人類は核融合爆弾三〇発で地球の獣(と、呼ばれる)を完全に殲滅し、同時にそれらもまた長い期間を経て変貌した人類の末裔だと知るのだった。嫌気性生物と好気性生物の覇権闘争のような人間戦争(じんかんせんそう)を描いた形か。
・春暮庚一「竜は災いに棲みつく」
激変する地球環境をコントロールすべく製造された四頭の抗災害人工生物、「竜」の在り様が迫力あって良いです。本編は四番目の竜である<ガーシェンディエタ>の軌道上への投入と、その阻止を試みるテロ組織との宇宙船同士の戦闘を軸に他の3つの竜が展開していく様を交互に記述していく。すべての竜が機能を発揮した絵面がなにか凄まじさを感じさせるとともに、人間そこまでやっていいんかやれちゃうのか、みたいな不安も生まれる。
・空木春宵「バルトアンデルスの音楽」
『2084年のSF』収録「R__ R__」に続く音楽小説。突如として地底から鳴り響いた「地球の音」。それを地表に響かせるべく建設される「花」。その音は人間を魅了し生活サイクルを変え、更には人体を変貌させていく。本編は音楽進行に合わせた章立てが成されていて、音楽に通じた人ならもっと解像度の高い読みが出来ると思う。
こんなところで。正直言うと「ワタリガラスの墓標」のインパクトが大きすぎて他が霞んでしまった印象が、やや。そして思うに、自分は環境問題がポジティブな方向に解決するとは(心のだいぶ奥底で)思っていないので、環境問題がどこかネガティブな解決を迎える話の方が、好きというか合うんだな。
