ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ミハル・アイヴァス「もうひとつの街」

SAKさんところでご紹介を受けて。そちらで採り上げていたのは文庫版だったけど、図書館で単行本を借りてきてよむ。理由はこっちのほうが表紙がカッコイイからです( ˘ω˘ )

チェコプラハを舞台に、古書店で発見した謎めいた菫色の本を手にした<私>が垣間見て訪れる、都市に重なる別の都市、「もうひとつの街」の謎めいた光景。ふたつの街が重なると聞いてまず思いついたのはチャイナ・ミエヴィルの「都市と都市」だけれど、

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「都市と都市」では双方とも実在する都市が、いわばモザイク的に結合していたのだけれど、こちらはもっと位相が異なるというか非現実のグラデーション状に重なっているというか。不条理かつ幻想よりの幻想小説です(二重表現)。

まあ、ヘンな話だ。こういう小説を東欧・ロシア圏では「ファンタスチカ」というくくりでまとめていて、SFやファンタジーというよりは「不条理」が主なんだろうなあというのはだいぶ昔に読みました。

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<私>はふたつの街を行き来し「もうひとつの街」の謎に迫っていくのだけれど、何か真実が明らかになるのかといわれれば、必ずしもそうではない。そうではないけれど、どこか異国の、さらにその向こうにある謎めいた場所や人々の有り様には魅力がある。文章がね、良いのよ。最近なかなか見ないような長文のセンテンスが重厚というよりも濃厚な筆致で書き連ねていて、ストーリーを追うよりも文章に耽溺するタイプ、か。山尾悠子とかそういうのが好きな人にはいいかもです。いちばんの不条理は何故か魚が地面の上をのたうちまわって、あまつさえ教会の鐘楼でサメと戦う<私>という、なかなかシュールな絵面が良い。なんでも、海なし国であるチェコの人にとって、海の生物はそれだけでエキゾチックな存在なのだそうな。「温泉シャーク」売り込みに行こうぜ!!

そのサメは第9章に登場して案外あっさり退けられ、教会の十字架に突き刺さって死んでしまうのだが、その後も(全22章である)時折口端に上って、皆を楽しませてくれる。もって瞑すべし、サメよ( ˘ω˘ )

主人公にサメをけしかける謎めいた少女の名前が「クラーラ」だというのはガルパンおじさん的には良かった。その後名前が変わってしまうのは残念だった(´・ω・`) 同じキャラクターに複数の役割が降られて度々登場するのも、役者の少ない低予算映画みたいでなんかよかった。ありとあらゆる人間がいったん話し始めると延々と長い語りを続けるのはだいぶ辛かった。

読了して、総じてヘンだが、ヘンだけどこういうのは好きだなあ。特にサメとぽこぽこ殴り合う<私>はよかったなあ。などと思いながら訳者あとがきを読み進めていたら、

 なお、本書の8章と9章のみ、高野文緒編『21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集 時間はだれも待ってくれない』(東京創元社、二〇一一)に拙訳が収録されている。

ごめん全部忘れてた(´・ω・`)

あー、なんか長編を抜粋したような作品は載ってたような気もするが、あれ読んだ頃はまだサメサメしくなかったからなあ俺……