最近復刊著しい著者の、これは2003年カッパ・ノベルス刊行を今年になって文庫化したもの。巻末「文庫版あとがき」には「堕天使拷問刑」復刊までの道のりと本書文庫化までの流れがまとめられていて、資料的価値も高い。
本編はいかにも曰くありげな探偵がいかにも曰くありげなファム・ファタルと出会う冒頭から、あっというまに嵐の山荘に移動し死体があらわれ、クセだらけの滞在客がワラワラと……という流れが異様にハイペースで進行して気持ちがいい。流石の腕前である。
視点人物を様々に切り替えて過去は少しずつ明かされ、謎はますます深まる。全員が「信用できない語り手」によって記述される物語の中で無造作に死体は増え続け、生存者は減っていく。
話の途中で一か所、あまりにもあからさまにミスリードを誘うような記述があり、これはミスリードのフリをしたさらにその先のひっかけなんじゃあるまいかと裏の裏を疑ったんだけど、これ自体は単純にミスリードを誘うトリックでした。ただ、そこまで含めて著者は読者を楽しませているんじゃないかとも思う。わざと「暴きやすい稚拙なトリック」を読者の目の前に投げて食いつかせる、そういう遊びをしているような。
意外な真犯人と意外な犯行動機はなるほど飛鳥部勝則だ!と思わせる(話の途上で様々なキャラがやたらとオタク的なジャンルトークや演説するのもいかにもいかにもだ)し、そして本作は
冒頭に掲げられた「序章」で、この世界にはUMAが存在することがあらかじめ提示されるんだけど、「全長7メートルはあるヘビに人間の足が生えている」ってそれ仮面ライダーアマゾンのヘビ獣人だよ!おれはくわしいんだよ!!
という導入から、主人公の探偵杉崎が過去に対峙した事件と謎の薬物と、複数の登場人物がほのめかす人ならざる異形の姿。杉崎が左手の革手袋を絶対外さないってそれはライダーマン結城丈二だろ!*1などと軽いジャブを打ち続けつつ読み進めると、クライマックスは仮面ライダー対怪人軍団じみた様相を呈するのだった。いや面白かった。特殊設定ミステリばんざい。
初版刊行の2003年って「555」やってた頃か。だから狼なのかな?
*1:なお結城丈二は右手に手袋である
