グランダンの怪奇事件簿 (ダーク・ファンタジー・コレクション)
- 作者: シーバリークイン,Seabury Quinn,熊井ひろ美
- 出版社/メーカー: 論創社
- 発売日: 2007/01
- メディア: 単行本
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原題をThe Phantom-Fighter というオカルト探偵物の短編集。グランダンものはウィアード・テールズ誌に1925年から51年まで延べ27年計93編(!)掲載され、作者シーバリー・クインはH.P.ラヴクラフト、R.E.ハワード、C.L.ムーアと並ぶ同誌の書き手であったとのこと。人によっては「怪奇小説に登場するオカルト探偵の中で最も有名な存在」なのだそうだ。いや全然知らなかったのですが。余り紹介される機会がなかったのか紹介者の眼鏡に叶わなかったのか、国刊のドラキュラ叢書とか角川の(創刊当初)ホラー文庫とかに、なんで入ってなかったんでショ?
内容はかなりの正当(?)派で合衆国はニュージャージー州近郊を舞台に、様々に起きる怪事件をパリ出身、医師にして怪奇現象専門家・犯罪研究者ジュール・ド・グランダンが快刀乱麻に解決し、それを相棒のトロウブリッジ医師が記述するというもの。探偵はエキセントリックな変人(エキセントリックでないフランス人など居るのだろうか)、相棒は常識を担保する一般人と王道この上ない*1。
アメリカのホラー小説だなーと思わされたのが世界各地に由来する怪物伝承の類が、かなりの無節操さで狭いコミューンに現れ、これまた相当の即物さで退治されていくところで、あまり畏怖などを感じられない。
「この世界には、あるいはこの世界の外にも、超自然などというものはないのですよ。今日のどんなに賢い人でも、自然の可能性と力の及ぶ範囲などわかりません。『かくかくしかじかで我々の経験の範囲を超えている』などと言いますが、それはつまり自然の力の及ぶ範囲を超えているということなのでしょうか。そうは思いません(略)超自然と呼ぶべきものは一度も見たことがないと断言します」
つまり怪異というのは未知の自然現象だという、言わば不可知論的な隠秘学者か。いや吸血鬼とか獣人とかゾンビとか幽霊とかベタなものばかり出てくるのだが、そんなのは全部自然で、現象として対応します。その辺の気っ風の良さはある意味気持ちいい(笑)
上記の通り長期間にわたるシリーズの、初期の作品を纏めた短編集(1966年刊)。初出が記されてないので詳細は不明だが10年程の期間だろうか、展開はちと一辺倒な物が多い。怪異が起きるだけ起きて探偵が席を外し、記述者の前に戻ってきた時には全部調べが付いているパターンの繰り返し*2や、何度怪異と解決を目の前にしても相棒は常に「有り得ない」「信じられない」と進歩無く疑義を挟み、無能な邪魔者になる*3など、探偵小説特有の問題点がいささか気にはなるのだが、その中にあって「ウォーバーグ・タンタヴァルの悪戯」は異色の出来映えと思う。呪詛は被害者を殺すわけでなく生かすために発せられ、真実は開示されずに秘密は隠されたまま終わる。良いねえ。高圧電流で感電死する亡霊ってのはいかがなものかとは思うんだけどさ。
そして「エジプトから来ました」「俺南アフリカ」「ハイチ出身でーす」「旧ニューイングランド植民地から…」と各地の怪物悪霊が様々出てくる世界観であっても、ネイティブ・アメリカンの呪詛や祟り物がひとつも現れないのは、こりゃ実に近代アメリカの小説だなーと、そこは笑っていいんだよなあ…