ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ロビン・スローン「ペナンブラ氏の24時間書店」

 

ペナンブラ氏の24時間書店 (創元推理文庫)
 

 いまは文庫になっているのか。「ロイスと歌うパン種」*1のひとの作品で、今年続編というか前日譚が出るとかで読んでみる。一風変わった古書店の、その奥の書棚にある会員制の貸出本を巡る謎解き。存在しないはずの本に秘められた謎をグーグルやらなんやらの最新テクノロジーを駆使して解明していくと、そこに立ちはだかるは500年間それらの本の管理と解明を続けてきた秘密組織で…などと書くといかにも対立軸になりそうだけれど、パン種同様決してそうはならないところは面白かった。しかし主人公のクレイ君があまりにパッとしない青年な割りに周囲には天才だの美女だの大金持ちになった親友だのがわらわら出てきて、なんとなく他力を駆使してスムーズに問題解決…というのも近年のアメリカ製フィクションで時々見るよな。

ところで本作、主要人物のひとりが非白人(どうもイラン系らしい)なのだけれど、そのことをはっきりとは明示していないのですね。人種自体がお話には全くかかわってこない要素なので「チェーホフの銃」にはならないのだけれど、欧米人なら名前で見当つくのかな?ともかく、そういうフラットなセンスは好きです。

 

しかし作品内で描写されるグーグルの様子やグーグル社員が「グーグラー」としてなにかハイ・ソサエティーのように扱われている様は、なんつーかファンタジーだなあ。テクノロジーエルフか。

今年の一番について考える

今年はコロナだろ。

 

というのが嘘偽らざる心境でありますが、それが一番良いという訳ではもちろん無い。しかし何もかもが新型コロナCOVID-19に振り回された一年でありました。来年はどうなるのかさっぱりわからないけれど、良い年になってください何事も(切実)

 

・本

はねー、そのコロナ禍がいちばんピークだった時に読んだ「キャプテン・フューチャー最初の事件」に一番感銘を受けました。不和と不安に覆われた世界だからこそ、シンプルで強度の高いヒーローがフィクションとして求められるんじゃないかと、今年はだいたいそんなことを考える一年にはなったなあ…

とはいえ、実は本当のピークは今まさに、このタイミングで起きている。いまにくらべりゃ4月5月の流行なんて屁みてーなもんで、それでも当時の方が精神的なショックと救済を求める心理は強かった気がする。結局は2011年の時と同じで、慣れと飽きが来ているということなんだろうなあ。それが一番、怖いことです。

 

あーあと君、いくら本書に感銘を受けたからといって、日本SF大賞ノミネートに送り付けたのはやり過ぎだぜ?いちおう翻訳作品も対象範囲ではあるけどさぁ…

 

・プラモ

タミヤの1/48T-55は非常に良い出来栄えでした。バリエーションとか他メーカーによるデカールやディティールアップパーツを期待したいところで。このキットも「人類がコロナに勝利した暁に」作る予定だったけれど、結局はいわゆる第2波の渦中で作ることになったんだよな。このシリーズ来年はT-34-85が出ますが、むしろその次のNo.100に興味津々であります。来年も静岡ホビーショーはやらない(業者日だけやるとかツイッターで見た)そうなんですが。

 

・映画

珍しく(?)アニメ以外の映画を見たぞ!「がんばれいわ!!ロボコン」だけどな!!まあ変な話だったがスプリンパンのほうがもっと変だった気がする(´・ω・`)

アニメ映画もいろいろ見たけれど、一番を挙げればやっぱり「ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン劇場版」でしょうか。今年は漸くTVシリーズも見られたから、ちゃんと内容を理解したうえで、物語の完結を見届けることが出来ました。でもそれもコロナで公開日時が延期されたからなんだよね。

そしてフィクションの持つ力、フィクションに求められること、そういうことは「魔女見習いをさがして」でも強く考えさせられた本年ではありました。

来年はシン・エヴァガルパン最終章3話か。ちゃんと生きて見届けねばね、なりませんよね。

 

・アニメ

映画以外のでは何だろう?映像研とかはめふらとか堤防アニメとか見ていたな今年は。シグルリは微妙に失速してしまったけれど、それほど期待していなかった(失礼!)アサルトリリィは面白かったな。そんな中から一番を挙げるとしたら、それはやっぱり、

 

ウルトラマンZですね (・ω・)ノ

 

ウルトラマンどころか特撮自体すごく久しぶりに見たのだけれど、これは面白かったなあ。スタッフは実写版パトレイバーをやってたひとたちらしくて、いろいろあって実写版パトレイバーはスルーしたんだけれど、パトレイバーらしさも多々感じられて良かった。うむうむ。

 

世間的には鬼滅なんだろうけど、鬼滅は原作もTVも映画も全然見てないのよね。そのくせメインキャラと話の大筋はだいたい知ってるんだから、なるほど社会現象ってこういうことだなあ。

 

やっぱりね、ヒーローが求められている時代なんだと思います。そしてそれが虚構であるべきだなと、現実の世界でマンガみたいなヒーローが出てきたら困るものな…なんてことをね。

 

※医療従事者はじめ英雄的な人々は大勢いらっしゃると思います。しかし、そういう意味での「ヒーロー」とはちょっと違うわけで。

 

そして今年は大洗を再訪することが出来ました。前回(2年前)にやり残したことをいくつも消化できて良かった。しかし3度目があるのかどうかよくわからないんだなこれが。やりたいことはやれるうちにやっておけみたいなことは毎年年末にいつも考えるけれど、まさかこんな状況が訪れるとは考えもしなかった。食べたいものは食べておけ、見たいものや知りたいものには躊躇わずに触れておけ。いつそれが不可能になるとも限らないのだから……

 

なので今年の1月に公演された岩男潤子コンサート2020「Ever Green」の円盤が、是非発売されて欲しいなあと、

 

生きてるうちにさ(´・ω・`)

 

エレン・ダドロウ編「ラヴクラフトの怪物たち」上・下

 

ラヴクラフトの怪物たち 上

ラヴクラフトの怪物たち 上

  • 発売日: 2019/08/31
  • メディア: 単行本
 

 

 

ラヴクラフトの怪物たち 下

ラヴクラフトの怪物たち 下

  • 発売日: 2019/12/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 原著は2014年に刊行された最近の作家によるクトゥルフ神話作品集。本邦初訳というものも多いけれど以前学研が出してた「インスマウス年代記」に収録されていたものもあるそうで。「インスマウス年代記」は未読だったからまあ、ちょうどよい。

 

<上巻>

ニール・ゲイマンキム・ニューマンといった脂の乗った作家だけでなく、その昔モダンホラーがブームの頃に見た名前が散見されたので手に取ってみたのだけれど、むしろ初見の作家による作品の方が面白いような。そしてあまりクトゥルフらしくない作品の方が面白いような気がする…

上巻ではインドネシアを舞台にしたナディア・ブキン「赤い山羊、黒い山羊」、堕天使テーマのエリザベス・ベア*1「非弾性衝突」が面白かった。どちらもクトゥルフ神話というか普通に伝奇ホラーみたいな感じではあるのだけれど、クトゥルフ神話も最早伝奇というか古典の域には達しているのかも知れないね。

期待したキム・ニューマンの「三時十五分前」はあまりに短い掌編で、主に駄洒落というか韻を踏んだ(英語で韻を踏んだ)会話と歌詞の掛け合いを読ませるようなものだけにいささか難しいかもだ。ニール・ゲイマンの「世界が再び終わる日」も短めで、名の知れた作家の方がボリュームが少ないというのはいかにもアンソロジーっぽくはある(笑)

 

しかしこの上巻では<あの!>「暗黒神ダゴン」を書いたフレッド・チャペルが「残存者たち」というジュブナイル風味で(!)さわやかなハッピーエンドを迎える(!!)冒険SFをものしている(!!!!)あの、あの「暗黒神ダゴン」を書いたフレッド・チャペルが、だ!!!!!!!

 

あ、もしかして中身は別の生命とすり替わっているのかもしれない。精神寄生体こわい(´・ω・`)

 

クトゥルフ神話の怪物やテーマと「その他の何か」*2を噛み合わせたような話も多いので、巻末解説が「ゴジラVSクトゥルー!?」なんてタイトルになっちゃうのもわからんでもないけれど、しかしこの解説の内容はちょっと雑じゃあないかしら。誰が書いたかは、明記しませんけど(´・ω・`)

 

<下巻>

小粒な作品が多いなァ…などと思う中、スティーブ・ラスニック・テムとかカール・エドワルド・ワグナーと言った実に懐かしい名前があるのが嬉しい。前者は「深き霧の底より」、後者は「闇がつむぐあまたの影」をそれぞれ十代に読んでいる。どっちも創元で、それ以降は翻訳が無かった…

 

テムの「クロスロード・モーテルにて」は「ダンウィッチの怪」をオマージュしたような異種族婚で、いわばウィルバー・ウェイトリーの(ような立場の人物の)視点で語られる文章自体が狂気じみててよい。

ワグナーの「また語り合うために」はこっちに置いといて(オイ)、ジョー・R・ランズデールの––この人はよく名前を見るけど読むのは初めてかも知れない––「血の色の影」というのがとても良かった。「エーリッヒ・ツァンの音楽」にティンダロスの猟犬を混ぜたような、といってもエーリッヒ・ツァンでもティンダロスでもない、なんとまあロバート・ジョンソンネタだ。「俺と悪魔のブルーズ」ってありましたね…。こちらの作品にも「クロスロード・レコード」なる店舗が出てきて重大な要素となるのだけれど、そこであらためて先の「クロスロード・モーテル」というのも、そもそもがそういうことなんだなーと気づかされた。これはちょっと面白い読書体験。

 

下巻の解説は内容に即したものになっていると感じました。しかしいかにも箔づけに著名作家呼んで…というのはいかにもいかにもだ(何)

 

上下巻読み終えて、正直玉石混交だな…などと思っていたら一番最後に翻訳者植草昌実自身による「あとがき」があって、そこでちょっと軌道修正される。なるほどクトゥルフ神話ではないラヴクラフティアン・フィクション」ね。「らしくなさ」こそがむしろ「らしさ」であって…という。これむしろ巻頭にあったほうが良かったんじゃあるまいか。HPL本人の作品は今現在複数の版元から新訳が刊行されていて、そういう状況でちょっと毛色の変わった「ラヴクラフティアン・フィクション」の立ち位置というものを考える。真クリの後半作品が好きな人ならいろいろ楽しめるかもしれません。むしろがっちり入門しようと思う人には向かないかも知れませんが…

 

しかしこの内容で、いまどきはwikipediaあたりの記述が余程充実しているような、「怪物便覧」を載せる必要はあったのかしら???

 

そして思うに、真に「ラヴクラフトの怪物たち」というのは、彼ら作家のことであり、我ら読者のことなのだ。

*1:「スチーム・ガール」の人ですね https://abogard.hatenadiary.jp/entry/2017/12/03/201344

*2:狼男とか

ウィリアム・ホープ・ホジスン「エリ・エリ・サバタクニ」

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文学フリマで入手した私家版。「漂着文庫」レーベル第一回配本の田中重行氏によるホジスンの未訳作品短編集*1書誌情報などはこちらに。同梱されていたリーフレット(漂着文庫月報)によれば

正直言って「夜の声」レベルの海洋怪奇小説の傑作がまだ未訳で残っているわけではありません。

とあるけれど、デビュー作「死の女神」はじめ興味深い内容でした。海洋ものが多くを占めているけれど、なかには著者唯一の西部劇(!)「バークレイ判事の妻」や、未来のディストピア社会を描いた「1965年––現代の戦争」などのちょっと変わった作風の物もある。個人的には「呪われた<パンペロ号>」が非常に良かった。これはアサイラムに持って行けば立派なサメ映画になると思われる(笑)そんなオチで良いのか!などとツッコミ入れたくなるのも、考えてみればホジスンの作品には多いよな。

しかし一番インパクトがあったのは絶筆となる「戦場からの手紙」で、これは第一次世界大戦下のイープルより送られたものが抄録として当時のロンドンタイムズの死亡記事に載っていたもの。

 

おお、神よ!<ロスト・ワールド>とはこのことです––<世界の終わり>とはこのことです––。<ナイトランド>とはこのことなのです。––そのすべてがここに、あなたが座っているところから二百マイルほどしか離れていないが、しかし永遠に遠いこの場所に、存在しているのです

 

もし幻視者が、自分の見ている幻が実は幻でもなんでもないと気が付いた時に、そのとき抱いた感情、思考を作品として記述することが出来たら、いったいどんなものを書いたんだろうなあ。

 

もしペンがわたしを見捨てずに、かつてのような”才能”がまだ自分に残されているのなら、私はどのような本を書くべきなのでしょうか。

 

ペンは作家を見捨てなかったが、世界はもっと残酷だった。

*1:その他付録として明治時代に翻訳された作品やホジスン船員時代の評伝を収録。

米澤穂信「Iの悲劇」

 

Iの悲劇 (文春e-book)

Iの悲劇 (文春e-book)

 

 久しぶりに黒米澤。

 

Iターンをテーマに廃村をよみがえらせる計画が、幾度となく発生する隣人間のトラブルによって瓦解していく様を描く連作短編集。連載が半分、新規書き下ろしが半分といった内容で、連載分では昼行燈のような「甦り課」の課長が安楽椅子探偵のように謎を解くような構成をとる一方で、書き下ろし分では謎解きというのも弱いような(10m手前でばっちり真実に気づくような)ものもある。連載分でもあからさまに手掛かりが提示されているようなものもあり、そのあたりの薄っぺらさも米澤穂信らしい仕掛けで、エピローグまで読み進めると実は何が起きていたのか、そこで真実が明かされる構造。

 

しかし後味が悪いお話で、特に爽快感とかはない。困ったもんである(´・ω・`)

 

あー、最後の一行でこれがとある古典名作へのオマージュなのかと思わされる驚きはあるが。

 

あるがしかし。

プラッツ「ガールズ&パンツァー 劇場版 おてごろ模型戦車道 1/56 IS-2 プラウダ高校」を作ってみる(塗装編)

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で、続きです。前回はこっち。

およそ模型で塗装といえば世間様ではエアブラシか筆塗りか、みたいな話になるのですが、世間から遠く離れたところで缶スプレーを振ってるこの身の好み、模型雑誌なんかでももう少し缶スプレー塗装法の解説とかやってくれないものかしら。

 

モデルアートで最近やってたそうですが

 

それは読み忘れたの(´・ω・`)

 

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川村拓「事情を知らない転校生がグイグイくる。」⑦

 

 というわけで「事情を知ってる同級生がグイグイくる。」も7巻目です。今回の山場はバレンタインとか6年生を送る回とかで、そこで描かれるのは笠原さんの在り様だったりする。「倫理ケア」という言葉は最近知ったのだけれど、高田君の言動は周囲の人間を倫理的にケアしているのかも知れません。いわゆる癒し系よりもうちょっと踏み込んだセラピーか。

そういう話が受ける時代なんだろうなとは思います。それが良いか悪いかはともかくとして。

 

次巻は6年生に進級して、どうも新しいキャラとか出るらしい。事情を知らない者はさて誰なのかしら。