ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

武若雅哉「陸上自衛隊74式戦車のすべて」

エロ本です。

というわけで74式戦車の隅から隅まであんなところもこんなところもどんどん見せちゃう魅惑の一冊。いやー、これまで車体内部は試作車輛(且つ用廃されて展示車輛になってる)STB-5のものを見たことがあった*1けれど、取材時まだ現役だった個体の、乗員全員分のポジションをここまで詳細に捉えたものは初見だ(*´Д`)ハァハァ

それ以外にもディティールや運用時やらもう見どころ満載で、こういうのを読むとプラモ作る気なくしますね(・ω<) てへぺろ

発見・再認識も多くて、タミヤのキットで省略されてる砲身基部の半円筒形カバーが何のためのものなのか初めて知ったし、タミヤのキットがなんであれを省いたのかもあらためてよくわかった。あれバトラー装着時の車輛取材したんだなあ。

91式地雷原処理ローラーを装着した車輛があるというのは、これは本当に知らなかった。タミヤの90式用のパーツで作れそうですね作らないですけどね。

いまならHJなんだろうけどねえ……

 

なお、74式戦車用の掩体をひとりで掘ると64時間かかるそうですが(誰が計ったんだ)、4人で分担すれば16時間まで短縮できるそうです、やったね!*2

*1:カマド刊「戦後の日本戦車」に載ってた

*2:機力でやると2時間だそうな

三嶋与夢「俺は星間国家の悪徳領主!」1

来年アニメ化されるとかで、とりあえず読んでみる。

以前ツイッターの方で本格ファンタジー論争とかいう不毛な大喜利が弄ばれていた時に、「世の中銀英伝を本格ファンタジーだと思っているトンデモもいるぜ」なんて話が流れてきたんだけれど、案外それは慧眼じゃないかと思うんだよな。舞台こそ未来世界の宇宙だけれど、やっていることは「アルスラーン戦記」などと同じ種類の架空国家興亡史だし。そういう前提の上で、

本書は「小説家になろう」発の異世界転生ものです。しかし転生した先は疑似中世風世界ではなく銀河帝国的星間国家宇宙。その星間国家は別に地球文明の延伸した先とかではなくて、「そういう異世界」なのね。そこで伯爵に転生した主人公は悪徳領主を目指すべく、自らの領地(惑星)経営と鍛錬に勤しみ……みたいなお話。「最近の読者は特訓・修行シーンを嫌う」なんてことも稀に聞くけど、そういう方面に随分ページを割いていました。第1巻だからこそ、主人公無双の基盤をちゃんと書いておかなきゃいかんのでしょうね。インチキ芸人のテキトーなフリに付いて行ったらどんどん剣術奥義を極めて……みたいな流れは面白かったな。悪徳領主を目指しているつもりでもどんどん善政を積み重ねて周辺の人間や民草からの信頼と尊敬を得る。どうもそういう展開になるみたいです。しかしまあ

・巨大ロボ

・美少女

・宇宙戦艦

銀河帝国

・時代劇メソッド

・ちょいエロ

こういうノリってもしかしていま流行ってるの(´・ω・`)?そうと知ってりゃあ、うううううむ。しかし銀英伝とかファイブスターとか、あと信長の野望とか好きな人が書いたんだろうなあというのは、なんかよくわかります。

 

あ、残念眼鏡っ子軍事兵器開発ガールのニアスさんによる残念ハニートラップが(´・ω・`)

柿谷哲也「知られざる潜水艦の秘密」

当方の潜水艦の知識も相当錆びついているので、何か簡単に学べるものを……と思って読んでみる。潜水艦の歴史から現代の潜水艦の運用、特に戦闘方法についてコンパクト且つ的確に書かれた内容です。全ページカラー写真掲載でビジュアル的にも良いものだけど、キャプションが小さくて読み辛いのはこっちのせいだな……。

巡航ミサイル潜水艦(SSGN)の価値って高まったんだなあと思わされる。とはいえ、現代は専門のSSGNというより「巡航ミサイルも撃てる攻撃型原潜」なんですね。海自の潜水艦もVLS開発やってんだよないまは(本書は2016年の刊行)。

巻末に「世界の潜水艦」の章があり、アメリカの次に来るのが中国だという構成に驚く。今はそういう時代ですものね。ただこのパート、西欧諸国の潜水艦については触れていなくて、英仏の原潜はもとより世界的ベストセラーとなっているドイツのディーゼル潜水艦についてのページが無くて残念(本書の他の箇所でコラムや本文中で触れてはいますが)

 

辻村深月「小説 映画 ドラえもん のび太の月面探査記」

映画のノベライズだけど、映画もマンガも見ていませんというか、そもそも最近の映画ドラえもんに「原作マンガ」ってあるのかどうかすら知らない。月面の様相を簡便に解説するような内容かなと思って手を出したんだけど、あっという間にのびドラによるテラフォーミングが始まってしまい、そっちの要素はほとんどなかった。

まあ、「映画のドラえもん」みたいな話です。まんまか。出会い友情冒険ピンチ逆転勝利別れみたいな、なんかテンプレートに乗ってる気がする。最後に映画のドラえもん見たのは鉄人兵団(新)なんだけど、逆転の鍵を発見するのが怪我をした女性キャラの手当てをするしずかちゃんというのもこの2作は同じ展開をする。ジャイアンは義に熱いしスネ夫は悩む役割だし、出木杉はハブられる。

でもまあ、それでいいんだろうなと思いますよ。そうやって長く伝統を紡いできた物語なのでしょう。

しかし映画のドラえもんは明確に「敵」がいるものだから、戦争だの解放だの、やたらと「闘争」が多いなあ。それもテンプレなのかな。

バリー・B・ロングイヤー ディビット・ジェロルド「映画小説 第5惑星」

Amazonの登録では何故か第「五」惑星になっている、ようやく探し当てた講談社X文庫版です。いや長かったねえ。原作「わが友なる敵」の感想はこちらに。

 

abogard.hatenadiary.jp

まずこの映画ノベライズ版を読んで、その後映画を(TV放送で)見て、ノベライズで面白かった後半のシーンが映画には全然無かったんでどういうこっちゃねんと原作を探したら、原作は地球とドラコ星との長い歴史的な推移を連作短編で描くような内容で。「わが友なる敵」はその1編に過ぎなかったのね。それでやっぱりどういうこっちゃねんとあらためて探したノベライズ版、やはりこれがいちばん面白い。原作者ロングイヤーと組んだのは(というかたぶんこの人が書いたんだろうが)ディビット・ジェロルドという、あとがきに拠ればスター・トレックの脚本書いたり、サンリオSF文庫で翻訳があるひとなんだそうな。

映画の内容もほとんど忘れてるんだけど、X文庫は挿絵の代わりに本編場面写を多く挿入していて、雰囲気掴みやすいものです。創刊当時はOVAと映画(主に洋画)ノベライズ主体で「読むビデオテープ」みたいだったものなあ。さすがにいま読むと文章は平易で章立てが細かすぎるきらいもあるけれど、無人惑星でのサバイバル生活に焦点を当てる一方、映画では全く切られていた(どうも無理矢理アクションシーンでまとめたらしい)後半、主人公の地球人ダヴィジが行方不明になったドラコ人の少年ザミスを探してドラコ星に赴くくだりが、原作よりも膨らまさされていて面白い。無人の惑星ファイラインIV*1で奇妙な共同生活を送ったドラコ人ジェリバから、彼らの信奉する ”たるまん” の教えを学び、むしろドラコ人よりもそれに精通したうえでドラコ社会に分け入っていくんだけどまーあれよね、元ネタが三船敏郎リー・マービンの「太平洋の地獄」ということもあって、戦後日本社会とそこに分け入るアメリカ人、のようにも見えます。ああクリンゴンと地球のパロディなのかも知れないなあこれ。ともあれ、映画よりも原作よりも、このノベライズ版を良しとする。

 

あとさー、これ中学生の時には気がつかなかったんだけどさー、オッサンとトカゲ宇宙人の奇妙な友情を通り越して

 

BL入ってます( ˘ω˘ )

*1:そう、ここ実は「第4惑星」なんである。なんであの邦題になったんだろう?ウルトラセブン「第4惑星の悪夢」に遠慮したんだろうか。

太田忠司「おまえは生きなければならない」

狩野俊介シリーズ以外の太田忠司の小説読むのも久しぶり。狩野俊介シリーズが微妙に現代とは異なる風俗の異世界を舞台にしているのに対し、こちらは完全に現代日本を舞台にした作品。阿南のシリーズとか、ちょっと思い出したりです。

ひきこもりニートユーチューバーで再生数は伸びず全方位に性格も悪いという、およそ読者の感情移入を拒否するような主人公を立てて話を作るのはなかなかできることではないよなあとか思うわけです。共感羞恥で死にそうになるけど(´・ω・`)

例によって作者の地元名古屋が舞台で、喫茶店に入って「大振りのコッペパンに分厚いカツを挟んで三つにカットしたもの」が出てくると、店名書いてなくともコメダだなってわかる。コメダが名古屋以外にも幅広く展開しているいまだから、名古屋以外の読者にもわかるようにこういうテクニックを使うんでしょうね。そういうところはさすがだなあと思う。後々居酒屋も出てくるんだけど、そっちでは特になにかギミック、仕掛けのようなものは感じなかった。

事件そのものは自殺に見せかけた連続密室殺人事件の様相を呈するのだけれど、終わってみれば案外普通の話です。これは主人公が天才名探偵とか不屈のハードボイルドとかではなくごく普通のひきこもりニート青年である、という話の根幹にも寄るんだろうなあ。いじめとかブラック企業とか、扱われる題材もとりたてて特別ではない、ごく普通の物だ。あんまりだな「普通」は。

内面と外面の差、周囲の期待と自身の卑下とのギャップから生じるモヤモヤした感覚のままストーリーは進むんだけど、途中で話に介在してくる女刑事の行動がちょっと不審で、実はこの人が真犯人じゃあるまいか、とは思った。ラストまで読むと不審さの理由もまあわかるものなんだけど、ああいう軟着陸の仕方は、ちょっと唐突かとも思う。それも作者の持ち味なんだろうけどね。

生活力皆無の主人公なもので、老親が離婚と家族の解体を切り出していい加減お前も独り立ちしろ。みたいなことを言い出す方が犯人と一対一で対決するよりよほど脅威だ、というのはなんか面白かった。

 

伴名錬 編「新しい世界を生きるための14のSF」

 

なかなか判断に困る。2年前に刊行された、その時点ではまだ単著を刊行していない作家で、「五年後とか十年後とか、書き手たちがそれぞれSF短篇集なりSF長編なり刊行して知名度が高まったあとでようやく編まれる」ような性格のアンソロジー、未来を先取りしたような一冊。実際2年後に単著が刊行されたとある作家のとある作品を読もうと手に取って、なんだか編者に踊らされてるなあなんて思ったんだけど、実はそれ、読んでました。割と微妙だったんで感想をちゃんと残して無かった。そんな不確かな状態で読んだものだから、どうにも落ち着かない。坂永雄一「無脊椎動物の相続力と創造性について」は既読且つ面白かった作品でしたが、全体的にあんまり合わないかなーと読み進めたら、最後に配置された琴柱遥「夜警」が抜群に良い。

14の作品から個別のテーマを導いて、先行作品へのルートを示したり、巻末には新鋭のSFが読める場を紹介したり、ブックガイドとしての機能が突出していて、それは面白いなあと思う。