ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

古処誠二「ビルマに見た夢」

ビルマに見た夢

ビルマに見た夢

  • 作者:古処 誠二
  • 発売日: 2020/04/21
  • メディア: 単行本
 

 古処誠二ビルマものというのも随分巻を重ねてきたけれど、本書は珍しくいい話というか「きれいな話」が続く連作短編集。「小説推理」連載の双葉社刊という事情が関係しているのかな?ここから出てる作品は他の版元(角川とか)に比べるとソフトであったりユーモラスであったり、そしておそらくは壮年・初老の男性読者をターゲットにしているのではないかと目される。本書でもっとも際立つキャラクターであるモンネイ少年なんかは、孫を見るような気持ちを読者に持たせる、そういう役割りで配されているのだろう。あくまで推測ですが、確信はあります。

インパール作戦直前の不穏な空気はあり、死者も語られるけれど、あくまで伝聞であって直接の死亡描写は無い。そういう意味でもソフトな話ではある。中津嶋少尉の遺言として伝えられるビルマへの夢が、現実のミャンマーを思えば単なる「夢」に過ぎないという苦さは、それは作品の外側に在るものなのでまあ、読者次第でしょうね。

モリナガ・ヨウ「プラモ迷宮日記 第3集[フラットレッドの巻]」

 

アーマーモデリング誌連載イラストコラム、第3巻*1。おおむね2012年~2020年の掲載分とプラスαというかたちで、タミヤMM50周年記念や2014年の菱形戦車Mk.IV発売関連などお祭り気分満載である。そもそも表紙のナースホルンからしてMM第一世代的にはお祭り気分であろうなーと、そういう1冊。

これはいったいどういう本だろうなーと、発売日前日に手に入れて直ちに読んで、その後ずっと内容について考えてました。「私家版戦車入門」のときにも感想書いたよな、と思ったけれどそっちはツイッターでやってたのね。

 

「私家版戦車入門1」感想まとめ - Togetter

「私家版戦車入門2 戦車の始まり ドイツフランス篇」感想まとめ - Togetter

 

そいえばルノーFTの記事は単行本収録されていないんだよな。「私家版戦車入門」も止まってしまっているようで、戦間期とかやってほしいんだけどなあ。

 

閑話休題

 

若干扱うテーマが違っているとはいえ、根底に在るものは上記2冊と変わらないといって差し支えないでしょう。柔らかいタッチのイラストと温かみのある書き文字、令和のいまにあってアナログの良さがたっぷり詰まった内容です。目の付け所の良さ、それを知らしめるスタイルの面白さ。実際にプラモデルを作っている人なら尚更、そうでなくても「プラモデルを作ること」は楽しいのだなと、とても判り易く提示されています。模型雑誌のほとんどのページと違って製作途中の状態で、プレゼンとしては完成されている。そうですね例えばこれらのページにあるものは「作例」ではないのですね。無塗装素組みのキットレビューでもない。これはなんだろうなあとしばらく考えていました。

 

追体験、なのかも知れません。モリナガ先生の手の動きや視界に入ったところを、それはどういうことだったのか読解して共有する。ちょっとそういう働きがあるように感じます。かつてはAM誌付属DVDが先鞭をつけた模型製作動画もいまやyoutubeをはじめ花盛りではありますが、もしも「VR模型製作動画」みたいなものがあれば本書のやっていることと近い感覚に、もしかしたらなるかも知れない。

 

いや、ならないだろうな。

 

AM誌に初めてイラストコラムが乗ったのが1998年のこと、かれこれ20年以上が過ぎて本書掲載分の記事では過去の連載で取り上げたキットをもう一度取り出して回顧するようなページもあります(だいたい旧トライスター製品)。読んでるこっちも懐かしいけれど、なんだかひとりの御人の「人生」を垣間見るようでそんなのフツーは模型雑誌読んで思うことじゃないぞ(笑)。生活と密着するような所も多々あって、ずいぶん前に「ニッパー2度切り」を伝授されていたお子さんがいつのまにかMGジンクス組む中学生になっていたり、更に「前にガンプラ作ってた長男」からホコリの溜まったトップコートもらうとか人生!ああ人生!!

 

普通は模型雑誌読んでそんな気分になりません(´・ω・`)

 

AM誌掲載以外のページでは「RC WORLD」誌に掲載されていたRC戦車の試遊レポート*2が面白くて、当時小学生のお嬢さんがガルパン経由でいろいろ楽しんでる様がほっこりで、たしか「ガルパンを見ていた娘がいつの間にか本当に女子高生になっていた」とかあったよなーとやっぱりこの本は人生を読んでますようむうむ。

 

他にもベア子さんフンメル子さんIV号戦車子さんとかいろいろあるけれど、本書めくって最初のページ(2ページ)のアタマにあるナースホルンの機銃架について「省略されたU字の銃架を作りたい」ってありまして、そこがいちばんのツボ。うふふってなりました。

 

人生ああ人生ですねまったくね。今後とも長期連載を願って止みません。あとAMはフィル連載も単行本化すべき。

*1:とはいえ既に「私家版戦車入門」2巻でまとめられているものもあるので実質的には5冊目か

*2:ハイテックマルチプレックスジャパンの製品だと思われる

ミック・ジャクソン「こうしてイギリスから熊がいなくなりました」

こうしてイギリスから熊がいなくなりました
 

 イギリスには熊がいないそうである。

 

言われてみれば確かに聞いたことがない。ヨーロッパで熊と言えば(イギリスはヨーロッパかという疑念はさておき)どこだろう。ベルリンのシンボル動物は熊だけれども、やはりロシアか。ロシアはヨーロッパかという疑念はさておき。

イギリスから熊がいなくなった顛末を連作的に語り続ける短編集だけれども、別にそれが「実際にイギリスから熊がいなくなった顛末」ではなくて、寓話めいたファンタジーとして紡がれている。寓話めいてはいるけれど、何らかの教訓や道徳的主張が成されているかと言えばそうでもない。

 

ヘンな話だ。

 

挿絵は素朴なタッチで描かれているけれど、題材自体は死んで樹から吊るされている熊だったり、飼育係を絞め殺す熊だったり、下水道からの脱出を願う熊たちの画だったりする。全編は薄暗いトーンに満ちて、そこで記されるのは有史以来虐待を受けてきた何世代もの熊たちの姿だ。

 

史実とは無関係だけれど。

 

熊を題材に何かの隠喩、例えば社会の下層階級や被差別階級にスポットを当てたようなつくり…に、見えないことも無いのだけれど、社会的な話かと言われれば必ずしもそうとも言えないように思う。

 

訳者あとがきも「本当に変な本だ」で書きだされているし、実際その通りなのだけれど、不思議な余韻は残ります。むしろあとがきで解説される「イギリスから熊がいなくなった本当の顛末」と「その後の影響」が普通に面白かった。なるほど王室貴族のキツネ狩りを「伝統だから」と是認すること自体に、反対する人がいる訳だなあ。

 

伝統でもなんでもないので(´・ω・`)

ラリイ・ニーヴン「無常の月」

 同題の短編集はハヤカワ文庫SFの327にもあるけれど、そんなこと知らなくても生きて行けます。というわけで本書は2018年に刊行されたベスト盤もとい版。ハードSFの大家として著名だけれどこれまで読んだことなかったよなーと思って手に取ってみたけれど、それはちょっと思い違いで十代のころにジェフリー・パーネルと共作とはいえ「降伏の儀式」を読んでいた。

…たぶん十代の頃に「降伏の儀式」を読んだからその後は全然手を出さなかったんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか(笑)

有名なリングワールドシリーズ(というかノウンスペースシリーズか)も3本収録されていて、「パペッティア人」とか「ゼネラル・プロダクツ製の船殻」とか、これまで単語でしか知らなかったものをちゃんと読めたのは純粋に嬉しい。特に後者は<あっちの>ゼネプロでまず知ったクチだから、考えてみれば随分と遠回りである…。このなかでは「太陽系辺境空域」の登場人物シグムンド・アウスファラーが非常に面白かった。「中性子星」にちょっとだけ出て来た時は単なる小役人じみた人物だったのにまあすごい。「太陽系―」では「降伏の儀式」のスペースシャトルアトランティスにも通じる重武装宇宙船を所有し、まあその他重度の武器マニアである。良いなぁ…。

表題作「無常の月」は天文学的に破滅する地球と最後の瞬間を過ごす男女を描いたもので、こういうの80年代の18禁マンガとかでよく見たような気がしますw まあいろいろそういうものの原点なのかも知れないね。映画化企画が進んでるようだけど、これ2時間ほどの映像にしちゃったら単なるディザスター・ムービーにしかならんのじゃあるまいか。短篇ならではの叙情だと思うのよねこういうのはね。

その他ファンタジ―作品が2つ収録されているのだけれど、「終末も遠くない」はこれ明らかに読んだことがある。しかしどこで読んだか思い出せない。これまでにウォーロックシリーズの短編集などいくつか邦訳されているようなんだけれど、どれも未読のものばかりでハテ…。S-Fマガジンで再録とかやってたっけ???

ハードSFというのは設定に比べてキャラの魅力があまり無いような偏見が(やや)あるんだけれど、そんなのは思い違いでむしろキャラクターが面白かった。そういう1冊でした。

 

 

 

イアン・バクストン「巨砲モニター艦」

 

巨砲モニター艦

巨砲モニター艦

 

1914年から1965年まで半世紀にわたるその存在期間に、二度の世界大戦で重要な役割を果たした42隻のイギリスのモニターについての、起源、活動、末路について書き綴った本稿が、誤った認識を正さんことを望むものである。英国海軍は、二度とこのような艦を建造することはないであろうから。

本文末尾の記述より。モニターあるいはモニター艦(monitor)というのは「軍艦の一種で、比較的小型で低乾舷の船体に、相対的に大口径の主砲を砲塔式に搭載したものを指す」とwikipedeiaにある*1。さかのぼれば南北戦争の装甲艦「モニター」*2に始まる艦種で、個艦名称がそのままクラスというかカテゴリー名になったというのは結構珍しいのではあるまいか。あまり海軍関係詳しくないのですけれど。モニターに類別される艦艇には「河川砲艦」なども多いのだけれど、本書はイギリス海軍が建造した、主力艦並みの砲戦能力を持ち第一次及び第二次の両世界大戦に於いて実践に投入されたモニターについての解説書です。他に類書は無く非常に貴重な研究書で、海軍史のメインストリームには決して乗ってこないような補助艦艇(なにしろ船というより浮き砲台に近い)の開発と運用の実態など、知らない話ばかりで大変面白かった。

こういう船をある程度の数で揃えられたのはイギリスならではの国情や地勢というのが影響しているのでしょうね。それまで連綿と続いた建艦競争の、常にトップを走っていたイギリスには、第一次世界大戦勃発時に転用が効くだけの旧式戦艦の主砲が余剰としてあったし、国内で外国向けに建造していた砲艦を接収したりアメリカがギリシア向けに建造していた戦艦にストップをかけることも出来た。そしてそこで得られた兵器を沿岸防御ではなく対地攻撃に回せられたのは、それは当時のイギリスと敵国ドイツの地勢的な状況によるものでしょう。旧式戦艦の主砲転用と言えばまず普通は沿岸要塞砲としての使用だろうけれど、当時の英独の海軍力ではイギリスが守勢に回る必要は、たぶんなかったんだろうな。アメリカや日本の場合はまず太平洋(及び大西洋)を横断しなくてはならないので、喫水線数メートルで最大速力6ノットなんて船*3は、まあ持たんでしょうなー。

華々しい海戦などひとつも無いのだけれど、地上目標への攻撃方法、主に照準と観測の手法の発達度合いが詳述されていて、なるほど海軍というのは砲兵が戦うところなのだなーと(そりゃ水雷屋も航空屋もいるけどさ)、再認識した次第。第二次世界大戦のノルマンディー戦役に於いて、モニター艦ロバーツ(二代目)が射程距離外の目標に対して、艦に意図的に横揺れ(ローリング)を起こしてその頂点で仰角を稼いで砲撃というのはなかなか熱い展開ではある。

チョロいオタクなのでプラモも欲しくなったけど、キットがあるのはそのロバーツが1/350であるぐらいか。トランペッターなのねフムン。

 

トランペッター 1/350 イギリス海軍モニター艦 HMS ロバーツ F40 プラモデル
 

 

どうせなら第一次大戦型の、それも初期の方の艦があればいいのになあ。パーツ少なくて済むぞw

 

ましかし、こういうイギリス軍の変な兵器の本を読むとすぐに「英国面www」とかやりたくなるけれど、それは待った方がいい。なにしろ本当に変なモニター艦はイタリア海軍が持っていたのだ。いや円盤艦ノヴコロドっちゅーのもあったけどさ。

*1:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%8B%E3%82%BF%E3%83%BC%E8%89%A6

*2:宮崎駿の雑想ノート」が題材として取り上げているので、そのスジには有名である。どのスジだ。

*3:WW1モニター艦の中でも後期に就役した艦やWW2時期の艦は無論性能は向上している

スタンリイ・エリン「特別料理」

 

特別料理 (異色作家短篇集)

特別料理 (異色作家短篇集)

 

 「ぜんぶ本のはなし」で取り上げられていた*1ので興味をもって手に取ってみる。表題作は古典の名作ではあるのだけれど、近年の日本では米澤穂信のオマージュ作品の方が知られているのだろうというか自分もそっち*2を先に読んだのだけれど(笑)

そんなわけであらかじめオチまで全部知って読んだからインパクト自体はそれほど強いものではなかったけれど、これがミステリ史上に残る傑作で現在に至るまで多くのフォロワーを産み出したことはよくわかりました。そして巻末の解説(山本一力による)で、この作品は「倒叙法」ミステリーなのだという指摘を見てなるほどなーと唸らせられる。オチがすべてでは決して無く、むしろ読者の予想通りの結末へと向けて、いかに緊張感を以って作品を構築しているかが魅力なのだというわけですね、そういうふうに出来ている。

そしてむしろ予備知識なく読んだ他の収録作品もクラシカルながら決して古びず、上品なスリルとサスペンスを味わえる逸品ぞろいでした。個人的には「お先棒かつぎ」の、考えてみればこれも一風変わった倒叙ミステリと言えなくもないのだけれど、意外性と緊張感の盛り上げかた、ラストの何とも言えない余韻が良かった。「奇妙な味わい」とはまさにこういう物を言うのだなあ。前に「いい加減別の名前を付けたほうが良い」みたいなことを書いた覚えがある*3けれど、やはり他に言い換えられるものでもないか。

 

ヒッチコック、そうヒッチコック的なんでしょうね。「ヒッチコック劇場」のような上質の恐怖と、決してグロテスクにはならない人死にと、そういうものだな……