ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

チャイナ・ミエヴィル「クラーケン」(上)(下)

クラーケン(上) (ハヤカワ文庫SF)

クラーケン(上) (ハヤカワ文庫SF)

クラーケン(下) (ハヤカワ文庫SF)

クラーケン(下) (ハヤカワ文庫SF)

空前のダイオウイカブーム*1に沸く日本に降って湧いたかのようなダイオウイカ小説。ロンドン自然史博物館に展示されていたダイオウイカの標本がある日突然姿を消した事件を発端に、博物館のキュレーターである主人公ビリーが巻き込まれるロンドンの裏の顔、マジック・リアリズム風味のオカルトアクション小説…と、だいたいそういう感じになるのか。ダイオウイカ崇拝教団とか胸躍る物は出てくるけれど、クラーケン自体は狂言回しでなかなかストーリーの中心にはなりません。むしろその存在を巡って様々に争う種々雑多なロンドンのオカルティスト、マジカル犯罪者やマジカル警察官(って何)の在り様が主題かな。登場人物(いや人間だけに限らないんだが)が大勢居て記述の視点はあちこちに飛び、あらゆるキャラクターが状況に翻弄されているので決して「読み易い」内容ではないのだけれど、その猥雑さから浮かび上がってくる混沌が、いかにも著者らしい「都市ものSF」になっているのでしょう。


オカルティックなモノの描写はユニークなものが多く、「魔除けのiPod」とか如何にもイマドキなチャームであったりその他にもいろいろ独特です。古代エジプト時代から延々と人形や彫像に(擬似的な)魂を飛ばし続けて存在しているワティの設定と、チョイ役だけど実に有力な特殊能力を持つプロレタリアのカメレオン、ジェイスン・スマイルのキャラが良かった。オカルトと言うより日本のフィクション諸作品に於ける超能力バトルやスタンド能力みたいな要素が多々あり、きっとジョジョ読んでるんだろうなあ本人も。ラヴクラフトやホジスンを初めとして様々な作品への言及や引用、ちょっとした小道具などが数多くちりばめられていてやっぱりこのひとオタク気質なんである(笑)


登場人物一覧は有ったほうが良かったでしょうね。キャラクターを説明するとネタバレになる面もあるんで、無しで済ませるハヤカワの編集方針を一概に否定も出来ないのですけれど。


あと本書内容と全然関係ないんだけれど読んでる最中妙に「世界忍者戦ジライヤ」のことを思い出した。アレもまあ、都市を舞台に(?)やたらとこじんまりした秘密結社や怪人物がワンサカ出てくる特撮だったなあ…*2

*1:とはいえ上野に行ってないなあ

*2:ベトナム帰還兵の「爆忍ロケットマン」はどうみてもイカ怪人であった