ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

クリストファー・プリースト「夢幻諸島から」

謎。謎めいた一冊。南北両大陸間のミッドウェー海にに存在するおよそ二万の島々からなる夢幻諸島(ドリーム・アーキペラゴ)の地誌を解説する「旅行案内」の体裁をとっているけれど、別にその二万の島々全てを微に入り細に穿ち記されているわけではない。そもそもこの地域は「時間勾配による重力異常」の影響で精確な地図や海図が製作不可能であり、島々の精確な数は誰も知らない。だいたいそんな場所を舞台に、序文+35章の章立てからなる連作短編集。章によってはただ島の文化・生活様式を述べただけの短い物もあれば、概ね手記の体裁を取った中編並みのボリュームを持つパートも含まれなかなか一筋縄では行かない。架空の地誌という点では「ハザール事典」を思い出したりします。

繰り返し語られるいくつかの事件や著名な人物の名を通して浮かび上がってくるのは、「双子」や「替え玉」などプリーストの著作で頻繁に語られるモチーフです。

どんな話か、おそらくストーリーよりも語り口を楽しむタイプの作品で、果たして語り手には信用が置けるのか、同時代的に見える出来事にはどれほど隔たりがあるのか、つかみどころをつかまずに、ページを手繰るのが読み方か。訳者あとがきにも有るように、別に順番通りに従って読む必要も無いわけです。行ったり来たり飛ばしたり、これはなかなか電子書籍では味わえない楽しみ方かもなーとアナログ派としては思うわけだ。

中で一品お気に入りを挙げるとしたら「シーヴル 死せる塔」でしょうか。恋愛は謎めくものである。

夢、そう夢の中で繰り返し同じ情景や「以前の続き」を見るような(気がする)ひとなら楽しみ方を見出しやすいかも知れません。そういうちょっと不思議な本です。