- 作者: 伊藤典夫,増田まもる,永野文香,中山悟視,吉田恭子,渡邉真理子,巽孝之,伊藤優子(YOUCHAN)
- 出版社/メーカー: 彩流社
- 発売日: 2012/08/31
- メディア: 単行本
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「初心者も読めるヴォネガットガイド本」という、だいたいそんな内容です。作家論やエッセイ、名言集や作品ガイド、生前最後のインタビューや未邦訳短編などいろいろで、これからヴォネガット読みたいってひとにはぴったりでしょう。こないだ読んだ伝記((http://d.hatena.ne.jp/abogard/20130927))の内容に遺族がクレームつけてることなど、新しく知った話もある。
ただまーねえ、これまで散々読んできた身としては今更感が拭えないものでもある。国際ペン大会で来日して大江健三郎と行った1984年の対談が掲載されているのは当時の思潮、ヴォネガットが今よりずっと最先端(?)だった時代の空気が知れて興味深くはあるのだけれど、結局これじゃあダメだったんだよと、今になって思わないわけにはいかないもので。
ヴォネガット本人の言動より周囲の人間の評価意識や物の見方がむしろアレで、結局は文学や文学者、インテリゲンツィアには世界は救えない。革新も出来ないってことなのだろうか。そういうものだけどさ。
「アメリカの戦争文学」としてメインストリームしか挙げられない視点、「ヒューマニスト」という言葉に優しさしか求めない視野。本書を読んでむしろこの二つが非常にショックだった。最近ハヤカワSF文庫が(嫌味な言い方をすると)愚にも付かないミリタリーSFを訳出しているのにも、ちゃんと時代的な意義はあるのでしょうね。
とはいえ、何度も書いてきた気がするけれど若い人にはどんどん読んでもらいたい作家です。その良さも、ダメなところもふくめての、ユーモアやシニシズムや、いろんなものをごたまぜにしたスクラップ置き場みたいなものがヒューマン、ヒューマニズムなのであって、日本ではそういう場所を「夢の島」と読んだりするのだ。
ヴォネガットを読み出した頃に誰かが言ってた「このひとは『チャンピオンたちの朝食』で終わってしまった作家のような気がする」が、ある意味正解なんだと思います。それがいいんだよ。