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ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

吉川惣司・矢島道子「メアリー・アニングの冒険」

メアリー・アニングの冒険 恐竜学をひらいた女化石屋 (朝日選書)

メアリー・アニングの冒険 恐竜学をひらいた女化石屋 (朝日選書)

先頃「恐竜を追った人びと」*1で知った女性化石発掘者の伝記。断片的な資料と類推を交えたよくある型式の評伝だが、著者のひとりが「装甲騎兵ボトムズ」メインライターの吉川惣司なんで個人的に大変驚いた。

はるか昔に学研ひみつシリーズ「化石のひみつ」でこの世界に脚を踏み入れて以来、恐竜といえばギデオン・マンテルのイグアノドンがスタートライン*2でそれ以前のことはほとんど知らない。前述「恐竜を追った人びと」に加えて本書が19世紀前半、博物学全盛期のイギリス自然科学学界の様相を伝えてくれることは無知な自分に大変面白く、有難く読める。学問って積み重ねですね。

わずか13歳にしてイクチオサウルス全身骨格を発見、その後もプレシオサウルスはじめ多くの新発見を成した人物でありながら、当時の社会的階級差、性差別などの障壁によって決して当代の主流と成るを得ず、いち化石発掘者としての人生を全うした人物、メアリー・アニングの伝記。科学者が室内に収まり屋外の発掘者とはまったく別個の存在として成り立っていた19世紀初頭の時代では発見すなわち研究とは成らずに、あくまで都市の研究者と発見した化石を売買する化石発掘「業者」としての身分に留まらざるを得ない苦労や貧困などが伝えられる。そのような立場にあって、時には強気に時にはおだてて学者様方に発掘化石を販売していくメアリー・アニングのある種のしたたかさは魅力的である。

標本に名前が記されることもなく学会に名声が残ることもなく、没後は忘れられた存在だった彼女だが、20世紀になって欧米では再評価が成され、特に児童向けの読み物などに「大発見をした女の子」として登場する頻度が高いそうだ。年少時に友人となった博物学ヘンリー・トーマス・デ・ラ・ビーチとの友情は生涯を経て続き、一時期はロマンスも囁かれて小説また映画として知られる「フランス軍中尉の女」ってこの二人がモデルなのだ――すいません、タイトルしか知りません――とかでいろいろ驚かされる。いや是非日本でアニメにするべきだね、「ハウス世界名作劇場」とかでだねw

化石が多く発掘され研究が進むにつれ金銭的な「価値」は下がっていくというビジネス的な苦労は面白かった。発掘業というものは一庶民が人手を雇って経営して行くにはあまりに大変な仕事で、今日ではなかなか考えられないと思う。国が予算を出したり研究者が自ら発掘に赴く現在のスタイルも、それらの上に堆積しているのだなーと、そんな事を思った。古いものを掘り出して、新しいことを重ねていくのが古生物学というものです。

今年は六本木ヒルズで恐竜展やってるけど、あの手のイベントの図録に名前が載るような存在になるといいですね。もっともその場合スタートラインを恐竜ではない「海棲爬虫類」から始めないといけないんでいろいろ難しいかの知れないな。

あとこの本、大抵の恐竜本じゃ古くて頑迷で進化論に反対した人物として描かれることが多いリチャード・オーウェンが、若き次世代の研究者として登場するのが新鮮で面白かったw

*1:http://d.hatena.ne.jp/abogard/20100216

*2:たった今知ったことだが後に刊行された「恐竜化石のひみつ」にはメアリー・アニング載ってたらしい。ほんの数年の違いでこの差。