ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

中村融・編「黒い破壊者 宇宙生命SF傑作選」

創元SF文庫の未読を読んでみるキャンペーン(まだやってたのか)、中村融による日本オリジナル・アンソロジー。刊行当時「言うてもビーグル号はずいぶん前に読んでるからなあ」でスルーした俺バカバカバカ。表題作こそ「宇宙船ヴィーグル号の冒険」の1エピソードであるものの、その他は全部未読でした。おまけにヴァン・ヴォ―クトの「黒い破壊者」も初出の短編版は改稿されたヴィーグル号版とは全然……だいぶ違う話だった!と思う。ほとんど忘れているぞヴィーグル号。今度ちゃんと読み直そう(´・ω・`)

そんでアレね、表題からてっきり「宇宙怪獣SF」みたいな内容を想像していたんだけれど「宇宙生命SF」なのであってモンスターパニック的な話は全然無くて、生命体の在り方や生活環境を提示する話、黎明期エコロジカルな話が主か。こういう中に混ざるとクァール(本書では「ケアル」表記)も、厳しい生存環境のなかで必死にサバイバルしている生物だと捉えられる。こっちの版だと自力で宇宙船作り出すところは「影が行く」(=遊星からの物体X)みたいでもある。そして思う、高千穂遥ダーティペアでやったようなオマージュを、いま新しくやることが出来るんだろうか?むしろやれてほしい。出典を明示し原著にリスペクトを表明し、魅力的なクリーチャーやガジェットを転用することに寛容なSF界であってほしいなあと思うわけです。クトゥルフ神話なんか基本それで回してるんだしね。

その他の収録策では、肉体を持たないエネルギー生命体である馭者座生命「ルシファー」と人間女性(いわゆる、醜女のタイプ)との精神的なつながりによるブラックホール探査、その悲劇的な結末を描いたポール・アンダースン「キリエ」がよかった。ジャック・ヴァンスの「海への贈り物」はアザラシ的な生物が出てくるけど、これ捕鯨とかペンギンから油を採取するとかそういう背景からの発想だろうなあ。ちょっとラストの絵面に笑ってしまったのと、本編の肝心なところが「俺は見てきたんだ」的な語りで済ませてしまうのがイマイチ。ロバート・F・ヤング「妖精の棲む樹」は珍しく(もないか)ロリ趣味ではない作品だけど、ヤングの非ロリ作品ってだいたい「別れ」だよなーとか思ったりしました。