ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ジョン・スコルジー「怪獣保護協会」

やー、面白かったですよ。最近は手癖で書いてるんじゃないかって危惧もあったスコルジーですが、やはり上手い人だなあ。ユーモアとウイットに富んだ会話で回していくところ、山あり谷ありのストーリー・アーク、それになにより爽快感あふれるところがあって、これ一冊で綺麗に完結してるところもありの、初スコルジーに良いかも知れません。主な舞台となる基地の名前が1954年版「ゴジラ」の登場人物から採られていたり飛行船の名前がショウビジン号だったりと、そこかしこにオタク要素がゴロゴロしてるところも含めて……だな。

まあね、人間コロナ真っ盛りの2020年に納期も締切もスケジュールも決まっている暗くて重くて複雑で陰気な野心に飛んでいた長編小説を3千語以上書いたところでデータファイル消失しちまったら、そりゃあ怪力乱神を語るしかないよ(´・ω・`) ネ!

実際、ストーリーもイマドキだなあと思います。主人公のジェレミーはケータリング・デリバリーサービス会社の(かなり上層部の)地位を突然追われて、そこのデリバリー配達員として、当然非正規雇用者の底辺的な立場に貶められます。たまたま配達先で出会った旧友が、たまたまスタッフに欠員を出していたことで、謎の組織KPS(KAIJYU PRESERVATION SOCIETY)に勧誘され……という流れ。ジェレミーをクビにしたCEOは後々悪役となって再登場するんですが、これがまたドナルド・トランプイーロン・マスクを足して親のコネと若さ馬鹿さを加減なくマシマシマシマシにしたようなクソ野郎だというのもイマドキだ。ただ、大金持ち対底辺のような構図でも、ジェレミー自身はホワイトカラーから落ちてきた存在なのであって、ガチの経済格差テーマではありませんね。あくまでエンタメ的な物。さて怪獣保護協会とはこことは違う並行世界の地球で、そこに生息する巨大な怪獣を保護観察する組織であって、長い歴史を持ち国際社会の政治経済の権力中枢から支援を受けて存在している……という設定はレジェンダリーゴジラみたいだ。そのチームに属する同期生4名を中心にお話を回していくのはちょっと「老人と宇宙」シリーズを思い出したりもします。ユーモアとウイットに富んだ会話というのは先にも書いたけど、日本人がフリでやってるわけではない、本物のアメリカ人作家が書いた本物のアメリカンジョークが、微妙に面白くないところも含めてやっぱりいまの作品ですねえ。

主要メンバーに一人いつまで読んでも男か女かわからない「ニーアム」というキャラがいて、実はもとから性別を明らかにしていない(原文では代名詞に ”they” を当ててる)そうな。ちなみに主人公ジェレミー自身も性別は明記されないので、そこは読者の感性で読んでしまって良いんだろうなあ。恋愛要素は一切ない、けれど友情は人を動かす。そんなお話だから、人の在り様は性差を超えたところにあるんでしょうね。あと、主人公一味とはちょっと離れたところにいるヘリコプターパイロットのサティが出鱈目に格好いいオヤジなので、脇にそういう人物を配することも大事だなあと。

そしてこの話に出てくる怪獣は死ぬと大爆発することにいちおうの理屈があって、そのことがストーリーの根幹に関わってくるのがよかった。だいじょうぶです、核爆発もちょっとしか起こりませんから(え

まあねえ、怪獣はいいよねえ。