ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ハンス・ヘルムート・キルスト「将軍たちの夜」

 

将軍たちの夜 (角川文庫)

将軍たちの夜 (角川文庫)

 

 安彦良和が三号突撃砲B型を描いていたとは知らなかった。いやA型かもしれないけどさ、ここはB型ということでひとつ。

ナチスドイツと殺人事件を主題にした、ある意味古典的な推理小説で、結構前に映画化もされている。内容は知らなかったが戦車が出てくることで好事家には知られているように思う。

以下、ストーリーの中核に関わるネタバレがあります

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クリスティアン・ウィルマー「鉄道と戦争の世界史」

 

鉄道と戦争の世界史

鉄道と戦争の世界史

 

 19世紀から20世紀にかけてのおおよそ100年間の様々な戦役で、鉄道がどのような役割を果たしていたかを編年的につづった1冊。鉄道というのは近代文明社会の大動脈であるからして、近代文明社会が激突すれば動脈のように重要な働きを示すものです。このテーマで1冊まとめたものってなかなか無いよな(もちろん個別の戦闘や運用、装甲列車写真集みたいなものはありますが、歴史概説書というのは貴重だ)。とはいえ近代戦で鉄道が果たした大きな役割は兵站と補給で、この分野ではマーチン・ファン・クレフェルトの「補給線」が名高すぎる存在であって、本書でもかなり参考・引用されています。

こと趣味的な話で言うと鉄道趣味では軍事分野はかなり傍流で、軍事趣味でも鉄道というのはまあメインストリームではないでしょう。でも軍事と鉄道というのは人類の歴史の中で強力に連結されていた時代があって、それぞれの時代と戦役で軍事がどう鉄道を利用したか、鉄道が軍事にどんな影響を与えたか、そのあたりは自分がまったく不勉強なもので結構な知見を得られたように思います。鉄道の軍事利用が最高潮に達したのは第一次世界大戦の時期なのだけれど、その後の第二次世界大戦においては既に旧式なシステム(なにしろメインは石炭で動かされる蒸気機関だ)であったために活用された、主力兵器と燃料を奪い合うことが無かったというのは、なるほど言われると納得する。

19世紀の帝国の時代にあっては鉄道線路を敷設することが既にひとつの軍事戦略であって、その辺は現代の日本の平和な鉄道利用者には驚くべきことなのかも知れません。

というわけで「シンカリオン」好きは物は試しに読んでみたらどうであろうか(笑)

伊能高史「ガールズ&パンツァー劇場版 Variante」4巻

 

ガールズ&パンツァー 劇場版Variante 4 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

ガールズ&パンツァー 劇場版Variante 4 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

 

 表紙エリみほってあざとすぎませんかね?いいぞもっとやれ、な4巻。誰しも事情はある、をホントにいろんなキャラにやってて遂に今巻では審判3人や大洗モブ生徒にまでスポットを当てる。そういう「本編で描かれなかったこと」をやる一方で、ではどこを残すのか。「本編で描いたこと」をもう一度描いているのはどんな場面なのか、その辺を気にしながら読んでみるとまた、面白いもので。

それでやっぱり本編では若干瑕疵が残ってたところを埋めているのは、やっぱりいいよなーと思う訳です。エルヴィン・グデーリアンのコンビとプラウダの小っちゃい子たちとかね。77ページ1コマ目のルクリリさんかっけえ(関係ない)

 

しかしクーゲルパンツァーってあざとすぎませんかね?いいぞもっとやれ。

COCO「今日の早川さん 4」

 

今日の早川さん4〔限定版〕

今日の早川さん4〔限定版〕

 

 8年ぶりの単行本、ご祝儀的に(?)限定版をハヤカワオンラインで直買い。考えてみると電子書籍版には「謎の布切れ」なんて付かないもんなーと、思うところで。

でその、8年ぶりの単行本とはいえその間もいろんなところで目にしてきたキャラクターですから、むしろそんなに経ってたっけというほうが意外でありました。さりとてそれらの出張版では尺が足らずにかなりのボリュームを描きおろしての第4巻でありました。まあ、みんないろんなところがちょっとずつ変わってて、(作者も言ってたように)全体的に等身が伸びたり、述流ちゃんはずいぶん大人になったり、岩波さんの双子のお子さんも大きくんまってたりとかまあいろいろ。1巻の頃は2ちゃんねるの名無しネタも飛び交っていたのに、今や時代はSNSとアイコンだ。これもいずれ過去の文明になって行くんだろうなあ…

 

ショートストーリー仕立てになってる19世紀ロンドンの私立探偵話が楽しい。このノリを続けてくれてもいいと思うんですが、どうでしょうかね?「バスカービルの魔犬」ネタとかねー。

 

しかしこの「布」なにに使うかな?いや、バンダナなんだけどさ(笑)

大森望 日下三蔵編「年刊日本SF傑作選 プロジェクト:シャーロック」

 

 この本をちょうど読もうとしたときに横田順彌氏の訃報を受ける。その業績、後世に与えた影響は限りなく大きい日本SF界の巨星、ご冥福をお祈りします。今巻収録「東京タワーの潜水夫」が遺作ということになるのだろうなあ。これ自体はカミの「ルーフォック・オルモス」シリーズのオマージュというかパスティーシュで、元がホームズ物のパロディ(らしい、未読)で、そこにさらに皿を重ねるものだからそうとう妙な回転をする、ハチャハチャなSFではあった。ではそれが面白かったかと言われるとやー、どうもねーうーむという感じではあり。それに限らず今回はベテラン勢の作品がどうもいまいちというか単に古いというか、どうも合わなかった。その分若手の作品が面白くて小田雅久二の「髪禍」のグロテスクさ、松崎有理「」惑星Xの憂鬱」のほのぼの感、宮内悠介「ディレイ・エフェクト」の喪失から回復に至る流れ、とか、そういうところが良かったなあ。山内悠子「親水性について」はベテラン勢の作品の中ではこれがいちばんお気に入りです。独特で…独特である(2度)

 

そんな中で今回のベストを上げればこれはもう疑いようもなく八島游舷「天駆せよ法勝寺」です。例によってkindle単品売りしてるのね。

 

 「仏教SF」というのもこれが初めてじゃないだろうけど、単語のつくり方、ことばのうまさにとどまらず、小説としてストレートに面白かった。キワモノみたいな印象を受けるかもしれないけれど、極めて真っ当な娯楽作品でした。だからその、巻末解説で「(ある種の)バカSF」って言っちゃうのはどうかなと、思う訳だな。真面目なお話でしょうこれは。