ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

空木春宵「感傷ファンタスマゴリィ」

「感応グラン=ギニョル」につづく第2作品集。前作の感想はこちら。

abogard.hatenadiary.jp

今回もテーマは繋がっていて、やはり人がアイデンティティを獲得する話。ではある。しかし何かが違っているようにも感じられて、それはなんだろうなあ。帯に書かれたキャッチコピーが「この呪いも、縛めも、私たちが解く」とあって、前作のそれと比べて突破する感覚……だろうか?主人公(視点人物)が死亡して終わる話もあるのだけれど、それでもある種の爽快感は得られる。それが「終景 累ヶ辻」で、実はこの作品アンソロジーで初出したときに読んでるんだけど、そのアンソロジー自体の感想は残して無かったのね。なぜ残して無いかってまあそういうことなんだけど、今回単著作品集で読んだ方が明らかに内容への理解が深まったように思う。面白いことです。

「さよならも言えない」は初読で、これがいちばん刺さった。魯迅に「故郷」という国語の教科書にも載るような作品があるけれど*1、あれを強烈に思い出した。そして自分が(読者としての自分が)もう若くはなく、本作の語り手にいっそう共感するような年齢になってるんだなあということをしみじみ思う。異星系を舞台にちょっと現代の人類とは異なるタイプの人間たちによる物語だけれど、そういう舞台設定だからこそ生きる設定、物語なのかな?

いちばんのボリュームを占める「4W/Working With Wounded Woman」、巻末に置かれた「ウイッチクラフト≠マレフィキウム」どちらも読みごたえのあるもので、どちらも暴力的です。グロテスクでサディスティックな描写は万人向きとは言えないかもしれないけれど、そういう設定を用いることで、テーマを先鋭化し伝わりやすくなる効果は確かにある。そして巻頭に掲げられた表題作「感傷ファンタスマゴリィ」の、どこか幻想的で蠱惑的で、そういうなかでアイデンティティを回復する話に、なにか感傷的な気分には、なるものですね。

当たり前の話なんだけど、やっぱり現代の読者に向けて書かれた作品なので、そこで提示される問題意識も向き合い方も、それは現代のものなんです。そういうものだな。

*1:しかし今は載ってんのかな?考えてみるとあれを「国語の教科書」で読んだというのも不思議で、外国文学枠だったんだろうか?