ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

G・アポリネール他 青柳瑞穂・澁澤龍彦訳「怪奇小説傑作集 4」

怪奇小説傑作集4<フランス編>【新版】 (創元推理文庫)

怪奇小説傑作集4<フランス編>【新版】 (創元推理文庫)

澁澤龍彦編ということでやっぱり他巻とは違う空気を感じるような。いや単にネームバリューに影響されているだけかもしれないが(笑)考えてみるとこの人の携わった書籍をちゃんと読むのは初めてかも知れません。冒頭作品がいきなりマルキ・ド・サドロドリゴあるいは呪縛の塔」でおおぅ人生初マルキドサドきどきしちゃうね!で興味津津読んでみたら意外にもこれがコメディ風味で驚かされる。他にもいくつか笑いを誘うものはあって、基本短篇集な本書だけれど中編と呼べるボリュームのものや掌編に近いものなど長短合わせて21本もの作品が収録されている中、そんなに「怪奇」でもないのも多くて…

収録された作品の多くは、果たして厳密な意味で怪奇小説の名に値するものであるかどうか、はなはだ疑わしく、むしろ幻想小説あるいは奇想小説という名で呼んだ方が適当ではないか、と思われるような作品もかなり混じっている。

と、巻末の解説より。作者も作品も特に名を秘すけれど「嘘かよっ!」とか「夢オチかよっ!」とツッコミ入れたくなるのもあったりで、様々な読後感を味わえます。どうしてこうなった(AA略)かと言えばやはり解説より

近代フランス文学の領域で、超自然の恐怖や怪奇を直接の主題にした作品を探すのには、非常な困難が伴うという事情があった。

ほう、ほう。

もともとフランス人の資質には(中略)なにか人間的な執着が最後まで拭いきれないのである。平たくいえば、フランス人の小説はあくまで人間臭く、その興味の中心が、どうしても物語のなかの主人公の人間的なドラマに向かってしまうのだ。

その結果、

フランス文学の領域には、恐怖小説ないし怪奇小説という一つの独立したジャンルは、かつて存在したためしがなかったのである。

と、いうふうに纏められています。へええええええええ、そうなんだ。ちょっとフシギ。欧米特にアメリカからだとフランスって結構な怪奇幻想のイメージだと思ってたので意外です。いささか純文学サイドに偏り過ぎなんじゃ?と思わなくもないけれど、夭折した編者による長文の解説解題はかなり読み応えありです。

アルファンス・カル「フルートとハーブ」は高橋葉介にもこういう空気はありそうな切なく哀しい幽霊作品。レオノラ・カリントン「最初の舞踏会」のブラックユーモアさは高橋葉介ぽくてギー・ド・モーパッサン「手」の不条理さはまさに高橋葉介っていやちょっと待て俺。

なんでも高橋葉介に例えるの禁止(・A・)イクナイ!!


なかでもバルベエ・ドルヴィリ「罪の中の幸福」がイチオシのお気に入り。これがまさしく怪奇でも幻想でもない、ひどく人間が人間的に振る舞うだけの作品なんだけれど、そこが怖いんですよ…

全身ぴったりフィットしたスーツで男女がチャンバラするのはなんだかエヴァみたいな←なんでもエヴァに例えるの禁止。