ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

テッド・チャン「あなたの人生の物語」

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

「最近のSFはどうも苦手意識があって」と遠ざけていたことを深く深く反省。認識の発達が思考方法の変化を促し、やがて世界を再構成させていく。そんな小説がいくつも収められています。

おもしろいな、SFはおもしろいなあ。

なにがどう面白かったのか上手く説明できない自分の語彙の貧困さ、語力の無さが哀しくなる…「商人と錬金術師の門」を読んだ時*1と同様、手塚治虫藤子不二雄のSF「の、ようなもの」に感じるのは自分のレセプターが古すぎる気がするが…。でも「理解」の面白さはいわゆる「アルジャーノン=チャーリィ効果もの」の構造に、サイバーパンク一般あるいは「ディファレンス・エンジン」第一部的な意思決定手段としての情報入手で「先んずれば人を制す」楽しさを加えたようでやはり孫子は偉大ですね!とさらに古臭く言ってみる。その際認識能力を強化された主人公の向かう方向が美と真理だ、みたいなのは劇場版ダブルオー*2を想起せざるを得ない。「沈黙のフライバイ」読んでてよかった…*3

ところでハトプリ最終回で「宇宙空間に咲く一輪の花!」ってやってたのはせっさんのマネ。いのべーしょんとぅもろぉー。「人類科学の進化」はなんだかガンダムSEEDみたいだったし、ここ数年見てきたいろんなものが、同時代SFに影響されてたんだろうなー

一本のストーリーの中にしばしばフラッシュバックで過去が挿入されるような形式で書かれている―ように見える―表題作「あなたの人生の物語」が、実はそうじゃないんだと気付かされる、その瞬間こそまさにSFでしか味わえないような読書感で、そしてこれは映像では絶対に味わえない感覚だろうと、本読みでよかったなあとしみじみ思わされる。「顔の美醜について――ドキュメンタリー」に至っては絵や映像でやるとホントになんにも伝わらないしな。

著者本人による解題では「あなたの――」についてヴォネガットの言葉を挙げていたけれどもうん、KVよりはよっぽど普通にモラリストだと思うの。「バビロンの塔」も凡百な書き手ならば絶対に皮肉やブラックユーモアにしそうな展開だけれど、そうはならない。「七十二文字」の錬金術世界で構成されたスチームパンク的ヨーロッパが人の手によるDNAの発生と可能性で幕を閉じるこの希望的観測こそがSFのパースペクティブですよ!と声低に主張する。

数学ぜんぜんだめなんで「ゼロで割る」がさっぱりわからなかったことはヒミツだwそして「地獄とは神の不在なり」の内容がモラルなのかインモラルなのかよくわかってないのだ。宗教もダメっぽいな俺。


最後にもう一度、繰り返しになりますが、SFはおもしろいなあ。