- 作者: H・R・ウェイクフィールド,鈴木克昌ほか
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2012/06/28
- メディア: 文庫
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面白かったー。あんまり面白いんで読み終えちゃうのがもったいなくてペース落とすレベル。怪奇小説好き、とりわけ英国方面に嗜好が指向されている方には問答無用でオススメする。
表題作はじめいくつかの作品はアンソロジーで読んでいる*1けど一冊にまとめられたものは初めて。巻末解説によると国書刊行会版「赤い館」の復刻文庫化+大幅増補のような意味合いがあるそうです。
その解説が短いながらもかなり読み応えのある内容で、この「最後のゴースト・ストーリー作家」のひととなりや書誌的情報などをつまびらかにしてくれます。ゴシックホラーでもモダンでもなく、時代を越えて幽霊譚を書き続け、最後は筆を折って決別してしまう寂しい生涯だけれど残された作品は実に面白い。それは素敵なことですね。
作品のタッチ自体は様々なスタイルに及んでいて、テクニカルな側面も十分に堪能できるかと思われます。一人称/三人称の書きわけも「怪異」がどの視点で観測されるのか、テーマに沿って書き分けられていることがハッキリわかる。最後まで不条理なまま終わる話もあれば謀殺された人物が因果応報祟り殺す話もあり、とにかく他芸、とにかく多彩。
お気に入りを上げると「“彼の人、詩人(うたびと)なれば……”」には珍しいことに日本人が登場して、ある詩集(おそらく俳句なんだと思う)の出版をめぐる幽霊譚が描かれる。J・カトウはともかくF・ゴネサラって日本人じゃないかも知れないけれど(笑)「暗黒の場所」はちょっとヒネリの効いたゴーストハンティングものながらイギリス郊外、カントリーハウスの牧歌的な生活風景が随所に(皮肉を交えて)語られる点も見逃せない。結局ハンターは返り討ちにあうのだけれど、その後怪異にケリをつける解決方法がなんとも英国的ではあり。「悲哀の湖(うみ)」と「チャレルの谷」は人称の違いによる小説記述の違いを十分堪能できて、この2作を並べた編集手腕はすばらしいものです。称賛の言葉を上げ続ければキリが無いな…
図書館で借りた本だけど、購入して本棚に並べるかもしれません。まさに珠玉、まさに逸品。
秋の夜長に読み進めるのはこういう本がいいね。
*1:『贈る物語Terror』には「幽霊(ゴースト)ハント」が収録されているhttp://d.hatena.ne.jp/abogard/20101214けれど、 「ダンカスターの17番ホール」を『怪談の喜び』http://d.hatena.ne.jp/abogard/20100415で、「ばあやの話」を『怪奇礼讃』http://d.hatena.ne.jp/abogard/20100111で読んでた。どれも傑作だな