- 作者: ブライアン・ラムレイ,夏来健次
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/11/29
- メディア: 文庫
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タイタス・クロウサーガ第三弾*1。前作「タイタス・クロウの帰還」で地雷が大爆発*2したのに比べれば今回はなんだその、ノーマンズ・ランドを行くが如しでその点気が楽…かも知れない。いちおーネタバレありにて。
前作ラスト、「宇宙のどこかでなにか重大な事態が持ち上がり…」云々の書き置きを残して消えたタイタス・クロウを追って時空往還機と共に旅立ったアンリ-ローラン・ド・マリニーを外宇宙で待ちうけていたのはエリシアに宿る「きれいなクトゥルフ」ことクタニド神の魂であったババーン!クタニド神は告げる、今や窮地に陥っているタイタス・クロウとその妻ティアニアを救ってほしいと。友情の為で在れば全ての宇宙、あらゆる次元に直ちに駆けつけるべくマリニーは神に問う。タイタス・クロウはいずこにありや?
┣¨┣¨┣¨┣¨・・・(効果音)
クタニド:地球( ^ω^)
アンリ:えっΣ(゚д゚lll)
クタニド:だからおまいのもといたところに はやく( ^ω^)カエレ!
アンリ:せっかくここまで来たのに(´・ω・`)
クタニド:そんでふたりはドリームランドにいるから帰ったらすぐ寝ろ( ^ω^)
アンリ:なにやってんだよおれヽ(`Д´)ノウワァァァン!!
うん、だいたい合ってる。
一連のクトゥルフ神話、ラヴクラフト系諸作品のなかでもドリームランドものってあんまり見ないような気がします。短編はともかく*3長編って珍しいような気が。本書第二部を成す「グランド・エンダビーの述懐」こそ先行する短編を長編作品内に織り込んだものだけれど、「幻夢の時計」は地球の夢の国を行く長編冒険小説で、たぶん「ホラー」よりは「異世界ファンタジー」に含まれる部類だと思う。70年代に書かれた(とりわけ、イギリスで書かれた)ヒロイック・ファンタジーとしてはマイケル・ムアコックの「エターナル・チャンピオン」シリーズという強敵がいるのでいささか分が悪い…かな?SF業界じゃニューウェーブが過ぎ去った時代に、なにしろ基本設定は1920年代の「未知なるカダスを夢に求めて」とかのままなんでさすがに古臭いぞ(笑)
タイタス・クロウ作品としては既刊の中でも最もボリュームが少ないので、ある種の読みやすさはあります。作品が短いおかげでこれまでの長編で感じられた作者の息切れ、構成的な破綻と省略が無いのはまあ、よかったかな。前回ウィルマース財団が壊滅してることもあって今回は個人に重点を置いた上でアクション成分が多いのもまた良し。タイタス・クロウはダンビラ片手に全裸でチャンバラ、アンリはアンリで泥酔したまま時計で暴走とかまー、やることがいちいち派手目です。
そらまー、「宇宙のどこかでなにか重大な事態が持ち上がり…」が実はただの新婚旅行だった日にゃー、アンリくんじゃなくとも酒でも飲まなきゃやってられねー気分であろう。リア充ってこれだから度し難いんですよ…。あ、あとティアニアさんさらわれ杉です。たかだか二百数ページの小説で一体何度誘拐されているのか、マシンロボのレイナ・ストールかお前は(笑)
なんだかんだ言ってクロウとアンリがランドルフ・カーターと出会う場面はじんわり来ましたねえ。この小説の語り部、名前を出さないある夢見人が誰かってことを考えても、ね。*4
結局はクタニド神の助力を得る、誰かの他力に本願する物語としての弱さはあるんだけれど、それをクライマックスまでは持ってこない点でも作品として進歩はしているでしょう。ただ、ナイアルラトホテップの出番ってあれだけかよ!とまー、それはオビオビ詐欺の類か。
これまで精々「驚き屋」程度の働きしかしてこなかったアンリ-ローラン・ド・マリニーの活躍が見られるのはシリーズ読んできた人には朗報でしょう。でもね、「若くてピチピチな女神とケコーンすれば宇宙はおれたちのものだ!!」などとクロウにそそのかされて地球世界と人類社会を後にしたのに、たかだかドリームランドの採石業者の娘さんと(しかも、超テキトーな成り行きで)らぶらぶにくっついてしまう志の低さはお父さんが聞いたら嘆くんじゃないでしょうか(w しかしそれを糺す立場であるはずの偉大な夢見人、ラヴクラフトの「銀の鍵の門を越えて」にも重要な役割で登場するアンリの父親エティエンヌ-ローラン・ド・マリニーは、彼もまたランドルフ・カーター王の腹心として本作に登場するのであるが…
アンリ:パパどこ?ちょっとボクを手伝ってよ(・∀・)
カーター:無理( ´_ゝ`)
アンリ:なんでっΣ(゚д゚lll)
カーター:おまえのとーちゃんずっと寝てるし( ´_ゝ`)
うん、まあ、だいたい…あってる…かな?
夢のなかでも更に居眠りこいてるとはドリームランド全域にその名を知られた偉大な夢見人であればこそ、流石だなパパンドマリニー。
いちおうハッピーエンドで終わるんだけど、シリーズの続きはどうなるんでしょうね?この後の2冊は主人公が違う人なんだよな…
*1:ちなみに日本ではじめて刊行された短篇集「タイタス・クロウの事件簿」asin:4488589014はシリーズ順で言えば第6巻である
*2:http://d.hatena.ne.jp/abogard/20081115
*3:りとくとにいくつかありましたね
*4:余談だが作者ブライアン・ラムレイはアマチュア時代には現役の軍人であった。西ベルリンに勤務しながら夜な夜な触手がどーこーなんて原稿執筆しているあたり、やはりイギリス軍は変態で紳士だ。