ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ケヴィン・ブロックマイヤー「第七階層からの眺め」

第七階層からの眺め

第七階層からの眺め

ジャンル分けについてはあまり意味はないのだと巻末解説でも言われているけど、強いて言えばSF色も含まれる純文学的な作品集で、「綺麗な話」が多いなーという印象。

表題作は虫も殺さぬような女性の、日々の孤独な生活がなぜ精神的に充足しているのか…が、SF的な要素で描かれ、スタートレックの(というかカーク船長の)パロディである「トリブルを連れた奥さん」はチェーホフの「犬を連れた奥さん」パロディでもあり*1、「<アドベンチャーゲームブック>ルーブ・ゴールドバーグ・マシーンである人間の魂」はタイトル通りパラグラフ選択式のゲームブック型式でごく普通の男の日常生活を叙述していくという、古式ゆかしいジュンブンガクでは到底測りかねるような類の「現代の小説」か。

ところでパラグラフ選択式小説ってネットで物書き始めたら誰しも考えるよね。なんてことない日常にも選ばれなかった可能性は存在して、しかし分岐された世界は実在するのかしら。このルーブ・ゴールドバーグ・マシーンというのはつまり「ピタゴラ装置」のことであって、どんな選択をしても最後には「ページ200へ」進んで主人公は死んじゃうんだけどな(w

冒頭にある「千羽のインコのざわめきで終わる物語」がいちばん好み。そこに住む全ての人に歌の才能がある街で、ただひとり口のきけない男がおりまして…と、ちょっと童話のような、寓話めいたお話です。「寓話」というのは本書の重要なコンセプトのひとつだけれど、なんであれ「ものがたる」ことには多少なりとも不可欠な要素だよなーと、思う。

*1:とはいえチェーホフなぞ知らん訳だが