ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

古川日出男「ベルカ、吠えないのか?」

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

この作品には国家や戦争、紛争や抗争などがいくつも出てくるが実際のところ軍事小説という訳ではない。これは闘争小説で、おそらくは「生きる」ということを扱っているのだ。

20世紀と言えば戦争の時代で、戦争と言えば犬だ。「戦争の犬たち」と聞いただけでいくつものタイトルが想起されるものだ*1。ああしかし無論多くの愛犬家の方々には到底賛意を得られまい。極めて個人的な事柄ではある。

幼少時の自分に軍事のイロハを叩き込んだのは実に犬であった。彼は実に果敢な兵卒であり、勇猛な下士官であり、高潔な野戦将校であった。戦術も戦理も私は皆彼から学んだ。階級も装備も私は皆彼に教えを受けた。

彼は雑種で、血統など少しも誇らなかった。生まれもつかぬ身でありながら、天賦の素質をただ実戦場で知らしめ、私はその姿と牙と爪を忘れることは決して無い。

「ベルカ、吠えないのか?」は実に傑作だ。独特の文体は実に効果的で人ではないものに呼びかける。ロックだ。ハードボイルドだ。犬だ。生きろ。攻撃せよ。

このよさをどう語れば良いか、本当のところ良くわからない。犬は吠える生き物で人は騙る生き物だな。





彼の犬の名を野良犬黒吉と云う。のらくろ大尉こそ私の中の軍神マルス)でありますシャキーン∠(`・ω・´)

*1:フォーサイスの小説、近藤和久のマンガ、竿尾悟のマンガ、泉谷しげるの映画