ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

チャイナ・ミエヴィル「ペルディード・ストリート・ステーション」(下)

ペルディード・ストリート・ステーション (下) (ハヤカワ文庫 SF ミ)

ペルディード・ストリート・ステーション (下) (ハヤカワ文庫 SF ミ)

続き。上巻を読み終えた後でamazonのカスタマーレビュー読んだらえらく低評価だったんでおっかなびっくり…と、そんな気分で読み進めたらいやーこれ、面白いですよ?なるほど愉快な結末では無いのだけれど、そこに至る物語の過程、登場するいくつものキャラクターは(グロテスクを通り越してゴアなんだが)十分読み応えのあるものです。気持ちの悪い描写を隅々まで堪能できる人にオススメってさすがにそれは悪趣味か。読み人は選ぶ作品だと思われ。

なんだろうねうーんこれまでいくつも接して来たフィクション作品の中でも一二を争うほど無様でしみったれたパーティがおよそ対処のしようが無いほど強力な敵と戦う、とんでもなくカッコ悪いお話である。ゴミ捨て場のスクラップから生まれた機械知性コンストラクト・カウンシル*1と多層次元を自在に行きかう巨大な蜘蛛神ウィーヴァー*2の支援を得、アイザックの危機エネルギーエンジンと統一場理論によって製作された装置でスレイク・モスを迎え撃つ場がまさにペルティード・ストリート・ステーション駅の屋上でこれは燃える!かと思いきやそのシステムに必要だからって貧民病院から身寄りのない瀕死の(しかし適度に活力のある)ジジイをひとり拉致して疑似餌に使い捨てるってちっともヒロイックじゃねー(笑)

そんなこんなで酷い苦闘の末街は救われるんですけどお話のキモはその先だった。共感できない主人公たちの行動にむしろこの作品は都市そのものが主役なんじゃネーノと思ってた訳だけど、最終章「審判」のラストでやっと、ようやく、ああこの話は翼を亡くした鳥が人間になるまでの物語なんだなと、いたく感動したのです。各章ごとの末尾に鳥人ヤガレクのモノローグが入るのは正直鬱陶しかったんだけど、それは全部この結末の為だったんだなあ…

物語中盤でスレイク・モスとウィーヴァー、さらに寄生生物ハンドラーの編隊が三つ巴の空中戦を繰り広げるところなんか絶品で、それを本筋には関係ないものとして惜しげもなく書き散らす(ような?)贅沢さもありで。あ、でも「3」はキーワードかも知れないな。いずれにせよ作者チャイナ・ミエヴィルは近年翻訳されてる海外作家の中では極めてイチオシであります。

スレイク・モスの何が脅威なのか、それに対してどういう防御方法があるのかは結構なオモシロポイントなんだけど、そこには敢えて触れません。それ自体実に象徴的ではあると思うが。

アイザックくんの恋人で虫ガールのリンちゃんが暗黒街の黒幕みてーなやつの人質になって手紙と共に身体の一部を切り取られて送りつけ、「こいつの命が惜しければうんたらかんたら」なお約束の展開に対して「得てしてこういう場合はもう死んでるから忘れろ」とあっさり(でもないか)退場してしまう流れにはビックリ。ところが実は…なのだが。

*1:パンチカード式プログラムに潜伏したウィルスによって増殖するってそれなんてディファレンスエンジン?

*2:一箇所だけ「妖怪」と記述されていてそれがいちばんぴったりするかな