機動戦士ガンダムTHE ORIGIN (10) (カドカワコミックスAエース)
- 作者: 安彦良和,矢立肇,富野由悠季
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/08/26
- メディア: コミック
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前巻に引き続き回想パートである「シャア・セイラ編」の後半。連載引き延ばし策であろうとは思うが*1、もともと同窓会みたいなマンガなのでさほど苦には感じない。「オリジン」と謳ってはいるが良くも悪くもこれは「安彦良和アレンジ版」なのである。
TVシリーズ放送当時、キャラクターデザインのみならずメカ一般も含めたチーフアニメーター*2であった作者だが、本作ではやはりキャラの描写に力を割いているようで、9巻ではジオン・ダイクンの暗殺とザビ家の権力掌握、キャスバルとアルテイシアの亡命というこれまで語られたことのない「欠落」を描くことで、これまで描かれたことのないキャラクターの魅力を語った*3訳だが、今回は亡命した兄妹が何故「マス家」戸籍を得、何故「エドワウ・マス」が「シャア・アズナブル」となるに至ったか、というパート。主な舞台がテキサス・コロニーなのは後々描かれるであろう「ララァ・スン」への布石か?
その一方でサイド3では着々と軍備増強が続けられ、ランバ・ラルがドズル・ザビと和解したり黒い三連星と再会*4したりする。ランバ・ラル大活躍である。
大活躍と言えばハモンさん(地下の酒場で歌姫兼ランバ・ラルの恋人兼秘密活動色々)やクランプ中尉(地下の酒場でバーテン兼元軍人)やタチ中尉(地下の酒場でボランティア警備員兼振られ小僧)などラル隊の面々も大活躍だ。昔はみんな苦労してたのだ。
そういう人たちを次々にヌッ殺していったアムロ・レイはヒドいヤツでまさしく死神、連邦の白い悪魔だ!*5
ジオン、というのは今でこそ英語表記は「ZEON」であるが、これは正式に海外展開をする際に変更された事例の一つで本来は「ZION」であった。当然のようにそこに集う人々は zionist であり、掲げる主義は zionism である。スタイルや行動様式から「ジオン軍」はナチス・ドイツのような姿で描かれることが多いが、本来投影されていたのはイスラエルであろう。辺境の地に追いやられた棄民政策の被害者が、彼の地で地政学的なアイデンティティを得て強固に武装するという構図はそれを裏付けているように思える。建国されたばかりのジオン共和国及びその軍隊は先鋭的であり、理想的であり、革新的である。
さて、「人の革新」であるところのニュータイプ*6が地球連邦軍という極めて保守的な集団に属していた、という皮肉はゼータガンダムで明らかにされる構図であるが、この「本来の自分が持っている性質を、本来対立すべき集団を守るために用いる」というのはどこかで見た覚えがある。
マイケル・ムアコックの「エルリック・サーガ」がまさしくそれで、混沌の陣営に属するべきメルニボネのエルリックは法の陣営の側で戦った。「永遠の戦士」達のの多くが自己矛盾を抱えていたように。
そう、現在まで姿形を変えて延々と存在し続ける「ガンダム」達はエターナルチャンピオンなのかも知れない。そしてアムロやカミーユは多分「剣」なのだ。
時には折れもするのだ。