ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ジェームズ・クラベル「23分間の奇跡」

23分間の奇跡 (集英社文庫)

23分間の奇跡 (集英社文庫)

ホラーと言い切ってしまうのはちょっと乱暴な政治的寓話だが、「世にも奇妙な物語」でドラマ化されたそうだからまあいいか。

怖い話です。

ある日の朝、子供達の教室にやってきた「あたらしい先生」が弁舌爽やかに旧弊で形骸的な教育指導を改め、論理的で実際的な新しいものに取り替えてしまうというまあ洗脳小説ですか。訳者解説にもある通り普仏戦争に敗れてドイツに占領されるアルザス・ロレーヌ地方を描いたドーテ「最後の授業」*1の次の日みたいな話である。*2

我々の常識は書き換えが可能である。日々の生活において絶対的だと考えられているもののほとんど全ては、実は相対的なものに過ぎないのだ。と、そんな感覚を受ける。例えば国民主権という考え方が我が国に導入されたのはたかだか半世紀程度前のことであって、しかもそれはかなり強制的な書き換えによって導入されたものだ。

だからそれは決して普遍的に存在するものではなく、いつでも書き換えられてしまう脆弱性の上になりたっているのだとか、そんなことを思う。「○○は絶対だから守られるべき」ではなく――それはただの思考停止だ――「なぜ○○は守られるべきなのか」を人から言われてではなくて自分で考えることが大事ですハイ。

余談。

戦争に勝った海の向こうの見知らぬ国からきた侵略者の手先であるところの「あたらしい先生」は19歳で看護婦みたいな「オリーブがかった緑色」の制服を着てすてきな歌を歌ってくれたりする。
それはそれで萌える。

*1:asin:4591098524

*2:個人的には「最後の授業」の続編は第一次大戦でエルザスとロートリンゲンを奪われたドイツ人教師がドイツ万歳と書いて去るような話がよいと思う