第二次世界大戦の主要戦場というのはいわゆる東部戦線であって、いささか反発を買うような言い方をすればアジア・太平洋方面というのはオマケに過ぎない。オマケで何人死んだと思っているのかとおしかりを受けるかもしれないが、独ソ戦はもっと桁違いの戦争をやっている。人類史でも有数の規模と期間で戦われたこの戦争の通史、原因と変遷や特色を近年の研究結果を踏まえたうえで新書一冊にまとめた入門書。
大事なことは「近年の研究結果」の反映で、日本では70年代に醸成され80~90年代に支配的だった第二次大戦(独ソ戦)の通説や定説、パウル・カレルを代表にしたそれらを批判し、戦後もプロパガンダとしてあった反ヒトラー・国防軍無謬説に修正を迫るもの。といったところですか。
余談。
同著者による論考「パウル・カレルの二つの顔」*1は記憶に新しいところだけれど、パウル・カレルを資料だと思って読んでた人が本当にいたのだというのもまあ、驚きではある。あれ「読み物」だからなあ…WW2ドイツ版の司馬史観とでも言えばいいのか。とはいえ、自分だって何がしかの史的資料や事実に基づいて著述されているの「だろう」とは思っていた訳で、「ありゃプロパガンダですから」とあっさり斬られれば「お、おぅ」とはなりましたな、うん。
閑話休題。
という訳で独ソ戦というものがなぜ起こりどう推移していったか、その潮流の転換点では何が起きていたか(そもそも転換点はどこなのか)、要所を押さえた読みやすい内容です。高校生の頃はなぜ世界史の教科書にスターリングラードの記述があるのにクルスクは無視されるのかなどと憤っていたものだけれど(嫌な高校生だなw)、同じ負けるにしてもこの2つの戦いでは敗北の意味も価値も明確に違うもので、戦争というのはボードシミュレーションゲームではないわけです。ましてや戦車模型の題材として戦争が在るわけでもない。
巻末には参考文献がちゃんと載っていますが、単なるリストではなく各資料の簡単な解説と、そこから広がる様々な研究へのガイドラインとなっています。入門書というのはその一冊で終わってしまってはだめで、読者に「その先」を示すものでなくてはいけませんね。良書です。
次は「第二次大戦の<分岐点>」読んでみるかな。
*1:いまは「第二次大戦の〈分岐点〉」に収録されている