ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

アンリ・イスラン「第一次世界大戦の終焉」

「マルヌの戦い」*1に続く一冊。サブタイトルに「ルーデンドルフ攻勢の栄光と破綻」とあるように、1918年ドイツ軍最後の攻勢とその失敗、休戦までを描く。前作同様筆者の焦点は上級将官や政治指導者たちの行動・意志決定に主眼が置かれていて「戦場の実相」のようなものを期待したら若干戸惑うかもしれない*2。しかしやはり節々に見える戦場の実相は前作とは随分異なる様相を見せていて、航空機に毒ガスそして戦車など、機械化戦争の片鱗が垣間見える。特に戦車に関しては(フランス人の手によるものだけに)ルノー軽戦車を初めとするフランス軍の車輌について多く語られるのが面白かった。

戦車。よく戦車の本などには「ドイツ軍は“戦車将軍”に破れたのだ」みたいな言葉が引用されるけれども、第一次大戦を終結させたのは戦車を初めとする新兵器の活躍などではまるでなくて、世の大抵の戦争がそうであるように物資の枯渇や継戦能力の低下、要するに国力が尽きた方が敗北するという、そんなお話しです。アメリカ軍が大西洋を越えて本格的に動員されれば最早ドイツ帝国と同盟軍に勝ち目はなくなるので、その前に攻勢をかけて勝利を掴むというのが基本的な戦略で、パリ砲撃やロンドン空襲などがあっても依然として第一次世界大戦での両軍の戦略目標は野戦軍を壊滅させて政治講和を結ぶというレベルの、そういう戦争をやってたのだなとは改めて勉強になりました。世界大戦がイデオロギー対立的な根絶戦、敵国の無条件降伏と政治体制の解体を目指すようになるのは「第2ラウンド」からか。

この分野はまだまだ知らないことが多いので、もっといろいろ刊行されてほしいものですがさて。

*1:http://d.hatena.ne.jp/abogard/20140306

*2:戦場の実相については古峰文三氏が意欲的にツイートしている https://twitter.com/Kominebunzo