エッセイというか、大学の文学部の講義を書籍化したような印象を受ける。実際そのようなものがあったかどうかは知らないが、「小説のタクティクス」*1を読んだ時のような感覚ではある。
題材となるのは実験小説、物語の構造や紙面の構成に一般的な小説とは異なる、なんらかの技巧や工夫を凝らしたあー、前衛的な?作品を紹介するもの。基本は海外文学だけれど日本人作家の作品としては円城塔の「これはペンです」が取り上げられている。
これらは要するに「現代美術としての小説」なのかも知れないなーと、時局に鑑み思うところです。小説というのも文字を使った art のひとつで、その分野に対してコンテンポラリーに携わり、同時代に何かを発信しようと思ったら、伝統に従うだけが文芸ではないよね。
紹介されている作品はどれもユニークだし何冊かは実際に読んでみたくなりました。しかし実際に読むかどうかはまた別の話であるし、そもそもこういう作品を好む人も決して世の中の大多数ではあるまいな。伝統というのはそれだけ多くの人が長い間支持を続けて来たから「伝統」足り得るので、現代というのは常に過去に対して劣勢なのかも知れない。優位な立場ではあるのだろうけど。
大事なことは技巧のための技巧に陥ることなく、技巧を通じてその形式でしか表現できないなにか。を表現することにあるのだろうと、それは小説に限った話ではないのですが、表現というのはいち個人が認識できるよりずっとずっと、幅も深さもあるものなんでしょうね。