ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

大内建二「戦う日本漁船」

戦う日本漁船―戦時下の小型船舶の活躍 (光人社NF文庫)

戦う日本漁船―戦時下の小型船舶の活躍 (光人社NF文庫)

光人社NF文庫を久々に新刊買い。以前読んだ「戦う民間船」*1と同じ、積極的に太平洋戦争当時の民間船舶の活動を記している大内建二氏によるもの。まさに、まさにこの内容をこそ知りたかったので非常にうれしい。書店で手にとって「どうも薄い本だなー」とか思ったことも確かではあるが。

その昔宮崎駿の「雑草ノート」で特設監視船の戦いを描いたマンガ「最貧前線」というのがあって、この分野に興味を持ったきっかけってそれかなあ。その後「最貧」というワードは「ラスト・オブ・カンプフグルッペ」の高橋慶史氏によって軍事趣味者にある種の潮流を生んだりしてとまーいろいろ。「ラスカン」はとかくエリートとか機械化とか高性能とか思われがちだった第二次大戦のドイツ軍が、その実態はビンボーでいっぱいな実に親しみやすい集団であると認識を新たにしてくれたものですが、もっと貧乏な軍隊は、もっと身近にありました。

正直、「まえがき」を読んだだけでいささか背筋が凍るような感覚を受けた。捕鯨船トロール漁船、機帆船など日本の民間小型船舶は戦時中にほぼ根こそぎ徴用され、使い潰され、犠牲者は民間船員全体の約半数を占めている。しかしながらその実態はほぼ完全に忘れ去られ、歴史の彼方に消えようとしている。記録や資料、証言など現在残されているものはあまりに少なく、「薄い本」ではなくてこれが精一杯の内容なのだと、損耗率7割超えで3万人以上死んでるのに判っていることが少なすぎるのだ。

この分野でいちばん有名なのはドゥリットル爆撃隊の発見を打電し直後に撃沈された第二十三日東丸だろうと前の時も書いたけれど、武装が精々小銃だけで発見連絡がすなわち沈没とイコールであった木造船の悲惨さが、実はまだましな方だったのではないかと思わされる。瀬戸内海の沿岸漁業を生業とする船舶を十五隻の船団組ませて6000キロ(!)も離れたラバウルまで航行させ、その半数が航海途上で脱落遭難というのは何かこう、なんだろうな…

太平洋戦争の戦闘正面が南方島嶼地域に広がり、本土と外地を行き来する輸送船団が多く損害を受けたことは広く知られる話だけれど、行った先の現地では小型船舶による輸送手段が必要になる。だから外洋航行能力を持たないような小型船を無理にもってってご覧の有様だ。海を知らない陸軍による徴用船舶の運用は海軍のそれより遥かに無理難題の連続で、その無計画さや軍属・民間人の被害を考慮しない態度は強く非難されるべきだと考える。

そしてそれが「狂気」とか「差別」とかではなく「やらないともっと悲惨な状況下に置かれる」戦時下の「合理的な」パラダイムで実行されていることがほんとうの戦争の怖さだと僕は思う。

いまでもそうだけれど小さな漁船は家族親族の単位で運用されている事が多い。故に小型船舶の犠牲者に未成年者の割合が高いことも、それは自然な成り行きだというのが、やるせないな…


米英独の漁船徴用などの記述もあり、武装漁船の運用について知りたいという人にはもうこれは必読の書といって過言ではないでしょう。現実は宮崎駿のマンガよりずっとずっと悲惨だ。