- 作者: 加登川幸太郎
- 出版社/メーカー: 文京出版
- 発売日: 1996/05
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- 作者: 加登川幸太郎
- 出版社/メーカー: 文京出版
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神保町で入手。加登川幸太郎の著作としては「帝国陸軍機甲部隊 (1974年)」「三八式歩兵銃―日本陸軍の七十五年 (1975年)」の二冊に続くもので、前にも書いたがもうちょっと入手し易くならないかな、と思う。前著二冊が史的変遷を概観するような作品であったのに対し本書はかなり毛色が変わっていて、もう少し言えば異質だと思う。記述の視点が当事者的、主体的に書かれていて、第一章一項が「昭和天皇様のお言葉」から始まっていたので正直、ちょっと引いた…。そもそも偕行社の関連で執筆されたものだそうなので、むしろ違って自然ではあるか。
是々非々ということは実に重要で、個別案件を精査しない限り実際的な問題点などは露呈しないものだろう。「非」の部分は大変勉強になり、ただしかしそこから仄見える「是」をどう扱えば良いのか、自分には持て余すように感じた。*1
著者は戦時中陸軍省軍務局軍事課に勤務し、資材班、予算班に配属されていた。為にそこから見えてくる台所事情、要するに軍備計画が生産能力を度外視しているので対米英開戦以前に破綻寸前であったことや、開戦当初から逼迫していた船舶事情が緒戦の連勝の結果民需を無視して徴用を拡大化させたこと*2など、旧軍の無計画さが浮き彫りになる。特に資材・予算の観点から如何に「関特演」が無駄な行動であったかが語られていて興味深い。空振りに終わった北進論でも動員は成され配備は敷かれる。弁当も便所も便宜を図らねばならぬことは山ほどあり、イデオロギーの差に関わらず軍事行動には金が掛かる。充員召集が行われれば当然後方から人員が割かれる。生産力は低下する。
参謀本部作戦課の人たちは、この無駄に召集した五○万という壮年の男たちが、当時の日本の国力や経済、軍需はもとより民需の生産力に、どんな影響を与えたかと考えてみたことがあるのだろうか。また今年だけでも九兆円という無駄金が結局は国民の肩にかかっていく。そして軍備充実にどう響くかということを考えたことがあるのだろうか
旧日本軍の歴史に関して読んでいると相当頻繁に暗鬱たる気分にはなるのだが、どうしてこう軽々と多方面作戦を指向するのかが本当に理解できなくなる。それらはしばしば他力本願ですらある*3。手前勝手な情勢認識を凡そ正体不明の相手に当て嵌められる神経というものはちょっと、想像し難い。
また浅学を恥じるが本書を読んで始めて知った単語に「虎号兵棋」なるものがある。
虎号兵棋の経過を要約すると、昭和十九年は「東守西攻の年」で、太平洋正面は年末ごろまで絶対国防圏前方要域(マーシャル、クサイ、ポナペ、ウェーク等)で持久し、この間大陸方面では四月までにインパール作戦(東部インドへの侵攻作戦)、十一月までに大陸打通作戦を完遂する。さらに二十年には局部的な攻勢を交えながら国防圏上で持久し、昭和二十一年に濠北、比島方面から国軍全力をもって大攻勢を敢行しようという腹案であった
これ昭和十八年末の作戦計画なんですけど、一体どうやったらここまでムシの良い発想が生まれるんだろう…なんであの時期に攻勢やったのかって牟田口の声が大きかったからとか、そういう問題では全然ないんだろうな…
長々と書いてしまったが「平和思想を身につけたければ先ず旧日本軍を知れ」と書いて結びです。いやー駄目だろ、戦争。
<追記>
この本神保町の某軍事書籍専門店(あそこですよあそこ)で購入したのだが、その際ここを利用して初めて店員の方が懇切丁寧にカバー無しであること、ページに書き込みが成されていることなどを説明してくれた。そのこと自体は大変好感の持てる事例なんだけれども、古書業界にもクレーマー渦があるんだろうかといささか不安にはなった…