ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

イアン・バクストン「巨砲モニター艦」

 

巨砲モニター艦

巨砲モニター艦

 

1914年から1965年まで半世紀にわたるその存在期間に、二度の世界大戦で重要な役割を果たした42隻のイギリスのモニターについての、起源、活動、末路について書き綴った本稿が、誤った認識を正さんことを望むものである。英国海軍は、二度とこのような艦を建造することはないであろうから。

本文末尾の記述より。モニターあるいはモニター艦(monitor)というのは「軍艦の一種で、比較的小型で低乾舷の船体に、相対的に大口径の主砲を砲塔式に搭載したものを指す」とwikipedeiaにある*1。さかのぼれば南北戦争の装甲艦「モニター」*2に始まる艦種で、個艦名称がそのままクラスというかカテゴリー名になったというのは結構珍しいのではあるまいか。あまり海軍関係詳しくないのですけれど。モニターに類別される艦艇には「河川砲艦」なども多いのだけれど、本書はイギリス海軍が建造した、主力艦並みの砲戦能力を持ち第一次及び第二次の両世界大戦に於いて実践に投入されたモニターについての解説書です。他に類書は無く非常に貴重な研究書で、海軍史のメインストリームには決して乗ってこないような補助艦艇(なにしろ船というより浮き砲台に近い)の開発と運用の実態など、知らない話ばかりで大変面白かった。

こういう船をある程度の数で揃えられたのはイギリスならではの国情や地勢というのが影響しているのでしょうね。それまで連綿と続いた建艦競争の、常にトップを走っていたイギリスには、第一次世界大戦勃発時に転用が効くだけの旧式戦艦の主砲が余剰としてあったし、国内で外国向けに建造していた砲艦を接収したりアメリカがギリシア向けに建造していた戦艦にストップをかけることも出来た。そしてそこで得られた兵器を沿岸防御ではなく対地攻撃に回せられたのは、それは当時のイギリスと敵国ドイツの地勢的な状況によるものでしょう。旧式戦艦の主砲転用と言えばまず普通は沿岸要塞砲としての使用だろうけれど、当時の英独の海軍力ではイギリスが守勢に回る必要は、たぶんなかったんだろうな。アメリカや日本の場合はまず太平洋(及び大西洋)を横断しなくてはならないので、喫水線数メートルで最大速力6ノットなんて船*3は、まあ持たんでしょうなー。

華々しい海戦などひとつも無いのだけれど、地上目標への攻撃方法、主に照準と観測の手法の発達度合いが詳述されていて、なるほど海軍というのは砲兵が戦うところなのだなーと(そりゃ水雷屋も航空屋もいるけどさ)、再認識した次第。第二次世界大戦のノルマンディー戦役に於いて、モニター艦ロバーツ(二代目)が射程距離外の目標に対して、艦に意図的に横揺れ(ローリング)を起こしてその頂点で仰角を稼いで砲撃というのはなかなか熱い展開ではある。

チョロいオタクなのでプラモも欲しくなったけど、キットがあるのはそのロバーツが1/350であるぐらいか。トランペッターなのねフムン。

 

トランペッター 1/350 イギリス海軍モニター艦 HMS ロバーツ F40 プラモデル
 

 

どうせなら第一次大戦型の、それも初期の方の艦があればいいのになあ。パーツ少なくて済むぞw

 

ましかし、こういうイギリス軍の変な兵器の本を読むとすぐに「英国面www」とかやりたくなるけれど、それは待った方がいい。なにしろ本当に変なモニター艦はイタリア海軍が持っていたのだ。いや円盤艦ノヴコロドっちゅーのもあったけどさ。

*1:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%8B%E3%82%BF%E3%83%BC%E8%89%A6

*2:宮崎駿の雑想ノート」が題材として取り上げているので、そのスジには有名である。どのスジだ。

*3:WW1モニター艦の中でも後期に就役した艦やWW2時期の艦は無論性能は向上している